第13章 蹌踉めく唇を重ねて
空が朝焼けで白んでいた。
花の香りと緑の濃さに、数回咳き込む。
その度に骨が軋んで鳴いた。
ゆっくりと閉じていた瞳を開ける。
起きぬけで歪んだ視界いっぱいに、
『そう』作られたにせものの朝空があった。
白昼夢の世界だった。
花は咲き乱れ、白む青と赤の微妙な色彩。
ここは花の楽園、夢の世界。
春の暁のような、儚い夢まぼろし。
「っ––––……」
微睡みおぼろな 甘い夢から、また意識を閉ざそうと––––
「おはよう、上橋。そして朝だ。
まあ、ここは時間的にはいつでもお昼なのだけれどね?」
淡く解けそうなテノールが、耳元で囁かれた。
「ひゃ……っ!
み、三島幹部。失礼致しました。」
身体を起こせば、優しい花風が吹き抜ける。
「そして、はい、お早うございます。
本日のお加減は如何ですか……?」
バイタルは首領が監視していますが
精神面的な調子は、こうして私や中也幹部が毎日欠かさず訊いているのです。
「うん、昨日よりはだいぶ良い方向だ。
でも会話する気力が無くてね。」
ふと私に向けられた笑みは、いつもの安穏なものだった。
「来てくれて済まないけれど、
君に一方的に話させることになりそうだ。相槌くらいは打てるよ。」
「そんな、気にしないで下さい。
……というか、大体それいつもの事じゃないですか……?」
「そうかもだ。」
包帯の巻かれた怪我に手を遣り
三島幹部が、ミルクティー色のふわふわした髪を結った。
三島幹部のこの大怪我は、
その昔、三島幹部の異能力で真綿様が彼を殺しかけた時に
負わせたものの後遺症で
それが今日まで響いている。
『死ぬという結果を先に押しつけてから、
それから殺戮することにより
対象は死から逃れることは出来ない。』
という、起因性異能力
三島幹部が、死にまで至らなかったのは
途中で彼の異能力が解けたからだと聞きましたが……
「上橋? まだ早朝だ。
眠いのなら、もう少し横になっているといいよ。
定時検診が来たら起こしてあげるから。」
穏やかに微笑んだ三島幹部ですが
そのお言葉、そっくりお返ししたいのですが……?