第2章 静謐なる暗殺者
「そうだね。なら、此度の任務は真綿君に委ねよう。」
森さんは、自分が撃たれるところだったが
少したりとも慌ててなどいない。
当たり前だろう。
今、この部屋には
世界高峰の暗殺者の一隅……
花房真綿その人がいる。
この方がなぜ日本の、ここヨコハマの
ポートマフィアに専属として隷属しているのかが昔から不思議で堪らない。
「うむ。それで良し。
戦況を決めつけるのは良くないさね
塗り替えるのが人間の常なのだと……妾はそう案じておったが?」
側から聞いていれば
随分滅多な言い分なのだが、これから熟す任務は真綿がするのだから水を差す訳にはいかない。
「そうだね。
そして、嫌なものを見せた。
真綿君の手まで煩わせてしまった。
済まないね」
怯えた黒服が他の近侍の黒服たちによって拘束され、退場させられてゆく。
「まったくさね。
気分の悪いものを見せつけてくれる…。
……嗚呼…、待て待て。」
身内の裏切り工作を謀ったその黒服に、
真綿が顔も向けずに待てを掛けた。
「妾の手を煩わせ、この糸を受けられたことを光栄だと知れ。
敗者である貴様への手向けだ」
口元に妖艶に指を当ててみせた真綿。
花房真綿とは、世界高峰の静謐なる暗殺者である。