第2章 静謐なる暗殺者
「ほう。如何程だと言うのさね」
「敵拠点はおよそ400人」
私が答えれば、「ほう」と真綿が資料を閉じた。
そして、細めた瞳で、森さんを見る。
「斥候を放てど、戻る者は未だ現在せず……と言ったところかや」
「そうなるね。策が失敗だったのか、相性が抜群に悪かったのか」
失敗、その言葉を聞いた真綿がすっと手を引く。
「……?」
その行動に今一ピンと来ていない幹部含め、近侍の黒服たち。
だけれど、私ならば、判る。
この手癖は。
「ひィ…っ!?」
嗚呼…ほら、やっぱり。
黒服の悲鳴が聞こえて、何事かと
周りの近侍の黒服もそちらを凝視する。
この部屋中に ピンと張られたワイヤーに
滴り落ちるは血液だった。
「失敗…ねえ…
失敗したなら、やり直すが良い。
それが許されぬ現状ならば、何かを足すが良いさ。」
黒服の首筋、頸動脈すれすれに掠めた鋼の糸が
摩擦音を一切立てずに、放った本人の方へと一瞬で巻き戻っていった。
「……引くことは出来ずとも
人間は愚かにも、
足して上書きするのが手癖だろう?
ならばそれを見せつけるが良い。
そうとは思わぬかよ、森殿?」
首筋をわずかに切り裂かれた黒服が座り込む。
その手には小銃を持っており
何処からどう見ても凶悪な照準は、森鷗外に向いていた。
「見せつけてくれるよな。
暗殺者たるこの妾の目前で、よもや殺戮を始めようなどと」