第12章 孤独の剣士との因果
無機質な金属音を静かに立てて、ナイフを手にし
逆手に持った得物を、下段に構えた。
真綿の靴底、普段なら踵を軽く打てば はみ出てくる仕込み刃だ。
スカルペスの方がリーチも飛び道具としての性能もいいものの、
こちらは よりコンパクトだった。
灰色に透き通るフィルムシート。
カーボンナノチューブ性の刃。
完璧に真っ平らであるその極々薄い刃先の厚さは8ナノ、
目認も指先の感度にも捉えることは出来ない。
世界最高のグラファイト素材として、
そして、同じく"世界"の御名を冠する真綿の
暗器に用いられる得物だった。
……まあ、あの時にもう冠位は手向けられたのだが…
金属音が庭中に鳴り響いた。
福沢の使う日本刀と真綿のナイフがかち合う。
耳障りな音が脳に直接届き、乱歩が顔を顰めた。
真綿が得意戦法とする神経ガスや毒は野外では使えない。
そも、あの糸も飛び道具も野戦には向かない。
もとより暗殺とは、一時のうちに済ませるのではなく––––
自分が絶対的有利になれるように事を運び、
こちらは無傷で勝利する。
真綿ともなれば、それは常套手段だった。
だからこそこんなにも手負いでする戦闘になど意味はない。
それでも昂った闘志、殺意、憤り
泣きたくなるくらいの
どうしようもない、脳が処理し切れなくなった虚無。
「く––––」
福沢が僅かに苦悶を漏らした。
手負いの真綿に押し負ける訳がない。
相手は手練れといっても一人の淑女。
自分のような、長年 刀を振ってきた男に
成人の女性が膂力で勝れるというのなら、摂理が用いられているのだ。
「斥力……か?」
「見事な看破さね」