第11章 三者三様のイフ
某月某日。
ヨコハマのとある場所。
「それでね!この稀代なる名探偵は言ってやったのさ!
何て言ったか判る?」
「ふむん?むー……、それを乱歩は憎しみと捉えた?」
「おしい!
そんなのは嫉妬に他ならない、それってすなわち愛憎なんだ〜って!」
ある屋敷の家屋にある陽当たりの良い縁側……
探偵のようなハンチング帽を被った青年が、
目の前にいる美しい彼女と
楽しげに会話をしている。
ちなみに彼女の方は、彼の話を聞きながら
将棋の駒を差していた。
「あるじ殿、銀だ」
「ふうむ……」
黒くて、その華奢な背中を煙る程の長さを持つ髪が
柔らかな風にそよいでいた。
純白の着物は、藍色の襦袢と重ねられ、
あの花園にいる彼の瞳の色のような
紺碧の袴を着用していた……
袂には透かしの入った瀟洒な和柄が散られ、嫋やかさを醸し出す
「そこで僕は言ってやった!
愚かだ!狂愛は諸刃の剣だ、相手も自分も滅ぼすだけだ!って」
この世の、ある楽園にいる男は
狂愛をエネルギー源にしているぞ……と彼女は思いながら笑った。
「真綿!
君は誰かを愛したことはある?」
そんな彼の質問に、真綿はふと笑う。
「そうさな––––––……
いや、妾には、福沢殿への忠義忠誠は在ろうとも
そこに恋慕はないさね…」
ミミック事件から一年。
こちらの彼女は、負った怪我を療養しながらも
新たな生を選びとっていた…