第10章 スイートセンチメンタル …3月14日
「何をしているのです、このような夜半に!
深夜徘徊など不敬ですよ!」
マフィアで支給されている、リボルバーを抜いて安全装置を下げた。
三島幹部に限らず、幹部という位の高い役職の方は命を狙われやすいから
大抵の幹部は、自分自身が異能者であるか、近侍に異能者をつけさせる。
私たちの場合は両方に当てはまり、私も異能を保持する一隅で、
三島幹部も非戦闘系ではありますが、特A級という札付きの方……
「うわっ! ……って、上橋ー…?か?」
「立原さん?」
明るい髪色をした、鼻や頬に生傷がある青年。
立原道造…
ポートマフィア『黒蜥蜴』部隊の十人長であり、二挺拳銃の使い手
狙った獲物は百発百中、逃した獲物は無惨剣山……
拳銃の扱いなら、立原さんは他の追随を許さないほどの手並み
「何してンだよ、こんな夜中に」
「聞き返しますよそれ?」
私は銃を下ろしてホルスターに留める。
彼を前にして銃撃戦で勝てるほど勝算がある訳でもなし
悪事を働いているところを目撃したならば、話は別として……
「あー、三島幹部いるか?」
「いえ。 外出中です。 何かご用で?」
私が問うと、立原さんが「あー…」と言って、頬を掻いた。
む。
その様な煮え切らない態度は、芳しくありません……
特に、三島幹部が関係しているというのなら。
「立原さん?」
「これ、さあ……。三島幹部に渡してくれねェか?」
立原さんが押し付けてきたのは、
淡い灰色のラッピングがされた小包みで……
あからさまに三島幹部宛て……ですよね?
女性からですよね?
「あの…中身の方は確認済みですか?」
「あァ、パウンドケーキだってさ。あ、それ、銀からな」
銀さんから?
銀さんは、立原さんと同じく『黒蜥蜴』部隊の十人長で、
ふた振りの小太刀を使うクノイチ…
ナイフとスカルペスを使う真綿様との交流が深く、
一緒に鍛錬しているところを何度も見たことがあった
「バレンタインに三島幹部から貰ッたんだとよ……」
「あー…。 はい、確かに受け取りました。」
いつもは黒い帯で顔の半分を隠している銀さんですが
顔をそこはかとなく赤くしているのが想像つきますね……
「さんきゅな。 んで、こちらさんは上橋宛てだ」