第10章 スイートセンチメンタル …3月14日
「え!え? あのこれ」
「じゃあな」
有無を言わさずといった調子で、中也様がさっと外套を翻した。
バレンタインデーでは、確かに 義理のお菓子を配りましたが…
よもやこの様な形で返ってくるものですか。
「クッキー……」
箱裏の成分表示に、焼き菓子と書いてあった。
有名な洋菓子店の小箱だった
というか……これ……
「添加物なし……
ってことは、三島幹部宛てだったんじゃないんですかこれ?」
いえ…でも。
「え。
三島幹部、中也様にバレンタインデー渡してませんでしたし。
いえいえ、そんなまさか。」
でも、箱の表紙には『For you』、その下には粗雑な字体で
『上橋』とありますし。
「いえいえ、そんな。まさか」
三島幹部と明日一緒に食べましょう
時間が出来れば、時間が余れば。
あの、永遠の夢の中で……
「あーあ……
三島幹部……」
星見なんて、一人じゃ物寂しいだけじゃあないですか…
いつもなら、この時間の夜はひとりぼっちだと仰っていた。
真夜中の花園を訪れる羊はいないから。
いつもこんなに物寂しかったのですか?
その寂しさは、他の何かで埋められないのですか?
「中也様はまだしも、部下があそこで寝泊まりだなんて失礼ですし……」
中也様と三島幹部には腐れ縁があって、気心の知れた同士だから
あそこで寝ようが待とうが、それはあのお二方にしてみれば
いつものことな訳で……
「……ん?」
三島幹部の温室の前に、怪しげな影を発見した。