第10章 スイートセンチメンタル …3月14日
「…もー……。
僕がちゃんと送りたいところだけれど、そうにもいかないね。
寄り道したら………判ってるね?」
にこりと甘やかな顔で微笑まれ、ぞっとした。
あ、なんかやばい蛇睨みってこういうの。
「し、しません!……致しません…」
だって、三島幹部じゃないとそういうのも意味ないじゃないですか……
今日はどの様な女性と
体温を分かち合うのですか?
その声で名前を呼ばれたりして
甘やかされて
ずるい……
というか不健全、不純反対!
「はあ……」
三島幹部がそうしていたように
ゆっくりと、星見をしながら一人で帰る夜道。
三島幹部をお車まで見送ってから、私は来た道を戻った。
「……あン? 菜穂子?」
「中也様」
私はひゅっと息を呑み、表情を消した。
私の笑顔も涙も、あの方のものだから……
「手前ェ、そろそろその『様』ッての止めねェか……」
「無理です。」
私はばっさりと言う。
中也様もとい、中原幹部は 男性にしては小柄な方で、
私と身長がほとんど変わらない。
「…じゃあ、言わせて貰うけどな。
三島の!直属部下に!
様とか呼ばれんのが擽ってェんだ!」
「ぶっちゃけましたね。」
声は一定、表情にもさほど変化なし。
これが私である。
「幹部命令……」
「職権濫用です。」
プイっと顔を背けた。
私、自分の上司には、ええ、
それはもう忠実に仕えますがそれ以外は範囲外です。
「…はぁ…まあいいわ…三島に直接言えばいい話だもんな」
「は。三島幹部を介してなら、やぶさかでは。」
私は腰を折って、中也様の前から去ろうとした……のですが。
「あー、待て待て」
「はい」
中也が菜穂子を引き止めた。
「これ、やるよ。」
「耐毒の鍛錬はもう本日分は済ませたはずなのですが……」
ぱらぱらと手帳を手繰る。
勿論、私が勝手に管理させて貰っている三島幹部のスケジュール欄。
直属部下は、その直属上司に何たるかを教わる事が多い。
私の鍛錬は三島幹部の仕事のうち。
「違ェわ! 素直に受け取っとけ!」
「わわわ! 何をなさっ––––これ」
私の手の中には、ラッピングされた小箱があった…