第10章 スイートセンチメンタル …3月14日
冗談になってねぇ……
真夜中だと言うのに真昼の夢を再現している花園のガーデンテーブルに置いてあった
三島のスマホが小刻みに震えた。
着音だった。
液晶パネルに、俺が名も知らない奴(三島のことだから多分相手は女)の名が浮いていた。
「おーい…三島ァ、電話。」
「嗚呼…有難う」
花畑の中央で、花を間引いていた三島が
皺一つないハンカチでスマホを包むように持ち、機器を汚さぬように電話に出た。
「…どうかしたのかい? …ん、嗚呼…。
いい、大丈夫。
僕も丁度、君に渡したいものが出来たから…
ほら、僕の迷惑なんて考えない。」
どうやら中也の読みが的中し、三島が穏和な声で応えていた。
三島は自分から電話を切らない。
それは長年の腐れ付き合いで判っていた。
もともと寝が浅い奴だったし
睡眠による怪我の治癒なんて考えることが馬鹿らしいくらいに
大怪我をしているから、野放しにしてやっている。
今のうちは!
「中也、帰ってきた直後に済まない。
ここの仮眠室の場所は判っているね?
君のベッドはすでに殺菌してあるから、そこで寝るといい。」
三島がすでに出かける準備をしていた。
そして、さっき間引いた全盛の花をリボンで纏めていた。
懲りない奴だな……まじで。
「気持ち良いからって 花畑の中で眠らないように。
君の服に花粉が付く。」
そこは花園の紳士らしく俺の心配よりも
花の心配をしておけよ、おい。
「じゃあ、少し席を外すから。おやすみ、中也」
温室のドアが静かに閉められた。
「……ったくよ…」
女子を抱くとは言っても、年齢のモラルが欠けている訳じゃない。
むしろ三島はそこの所は考えているはずだ。
どこぞの女と泊まったと聞けば、ただ単に抱きしめて眠っただけの時もあった。
望まれただけの口付けをして帰ってきただけの事もあった。
(あいつ……いつか勃起不全になっても知らね…)
そんな事を思っていても、ぐしゃぐしゃと頭を掻いて
毎回見送ってやる中也は、面倒見がいい…のだと思う。
たぶん。