第10章 スイートセンチメンタル …3月14日
「チ…っ」
そんなある夜。
中也はいらいらしていた。
真綿と織田が消えて、三島と言えば最近はまぁよく発作を起こし、以前よりも出歩くことが少なくなった。
……と、いうのに、だ!
「どこほっつき歩いてやがるあいつ!?」
そう、中也は彼の花園で彼の帰りを仕方なく待っていた。
三島の体調や異能力など、勝手を知る真綿がいなくなり、太宰も織田も消えたために
三島のなじみは自身の直属部下と中也と黒蜥蜴部隊と芥川と樋口くらいしかいないのだ。
マフィア内にいるその『知り合い』や『手駒』はざっと200人。
結構いた。
だからまあ、中也が率先して
こう、三島の世話や面倒を見ているというのに。
「帰ってこねェ!?」
すでに日付をまたぎ、自動式のスプリンクラーが幾度か発動していた。
……彼のガーデニングに抜かりはない。
––––と、そこに。
キィッと楽園の扉が開いた、微かな金属音がして。
目当ての彼が、帰ってきた。
ほ、と中也が安堵の息を吐く。
「遅かったのな、三島」
「うん? 嗚呼、中也。ただいま。
自殺寸前みたいな顔色の情緒不安定な女の子がいたから。
彼女が泣いて望んだ分だけ、いっぱい愛してきたのさ。
一泊ここを空けてしまってすまなかったよ」
悪びれもせずに女の相手を……
あの様子だと朝……、いや、今さっきまで一緒にいて、送ってきたというところか。
「おま……、あー…、まァ、うん、それが手前ェの強みだからな」
とやかく言わないでおくよと言っておくことにした。
今回はそれで許してやる。
「で、手前ェはホテル帰りか。
よくもまあ、あの辺の高級ホテル街の顔パスが出来るモンだよなァ?」
「うん? あー…、どうにも、男の気配なかったから。
彼のいない女の子を、安い所に連れて行くわけにもいかないだろう?」
うわ………相手の女が本当に可哀想だ。
泡沫の、一夜の夢のような溶けるような抱かれ方をされて、
それなのに多分こいつは名乗っていないのだろう。
「手前ェ、ほんといつか刺されンだろ」
「すでに真綿に刺されてるけれどね」