第10章 スイートセンチメンタル …3月14日
ケーキの甘い柔らかな余韻は、三島幹部がもたらしてくれるものにとても似ていた。
この楽園に引きこもる彼に無性に会いたくなる時。
それは、寂しい時だとか、泣きたい時だとか、そんな情緒の時が多い。
今日みたいに、『ついで』は寧ろ珍しかった。
彼の性質かもしれない。
「あ、あの…三島幹部!」
「うん?」
黒の外套を肩掛けにしたその背に声を掛ける。
ふわりと袖口の瀟洒なレースが風にそよいだ。
「また、来てもいいですか?」
菜穂子のそんな言葉に三島が一度だけ瞬きをしてから、穏やかな笑みをふっと浮かべた。
その濃紺の瞳が細められる。
「勿論だとも。
いつでも来るといい。
この楽園は安寧と安らぎで出来ているんだ、助言くらいは何ともないさ。」
その言葉に菜穂子の顔が綻んでいく。
「はい!では、また、是非!」
彼女の、頬を染めて笑顔で夢から醒める様といったらなんて可憐なものだろうか。
去っていくその背を見送りながら、三島がふと微笑んだ。
澄んだ偽物の青空の下、露をはじく花が揺れる。
「……今日も暖かい…」
こんな日は、静かに読書というのも良いかもしれない。