第10章 スイートセンチメンタル …3月14日
白い陶器製のティーカップからは湯気が立ち上っていた。
ふわりと漂ったのは、心が休まる、落ち着いたハーブの香り。
目の前にいる彼そのもののようだった。
よく中原幹部が『花園の紳士』だなんて揶揄していたけれど
冗談になっていない。
女性に圧倒的人気を誇っているのも頷けた。
特に年上の女性うけがよく、三島幹部の紳士対応に堕ちる人を
幾度となくこの目で見てきた。
彼がしてくれる とろけるようなセックスは、一度でも体感してしまうと依存性が高いだとか、なんとか……
って不健全!反対!
お怪我に障ります!
(で、でも……)
穏やかな三島幹部が一人の獣となる様は、どれほど甘美なものなのだろう……
って!私!
「上橋? 何を百面相しているんだい?」
「ひぅあ!」
考えを読まれたのかと思って、珍妙な悲鳴をあげてしまった。
その濃紺の瞳が、優しい空気を纏っている。
嗚呼、世の女性の気持ちが判る……
確かに、これは駄目だ。
悪どい。
三島幹部につい手を伸ばしたくなってしまう気分なんて、
溶けるように熱くて甘くてどうにかなりそうだ。
きっと私が手を伸ばせば、三島幹部は迷うことなくその手を取ってくれる。
こちらが望むだけの、擬似的であり
うたかたの夢のような愛撫をしてくれるのだ。
嗚呼、判る。
彼の紳士性とその穏和な優しさに
際限 無く おぼれて、堕落る女性たちの気分が。