第1章 ライナー&ジャン(進撃/104期)
こんなに立派な体躯の持ち主なのに気が小さいのが彼の特徴だった。大きい自分をそう認識させたくないのか、食事中も背中を丸めている。そのせいで食事が楽しそうに見えなくて、それはベルトルトくんと幼馴染みのライナーくんも頭を悩ませている事らしい。さんざん姿勢良く食べろと注意しても直らないそうだ。
ぼくも成長期に似た気持ちを抱いていただけにベルトルトくんの行動理由が痛いほどよく分かる。だからこそ断言さえできる事で、こればかりは一朝一夕では改善しないだろう。一応、必要以上に大きく見えないよう食事の席では必ず両脇をライナーくんとぼくで固めているけれど、いつか彼が自分を受け入れられる日が来ればいいな。
ベルトルトくんを見詰めていると猛禽類を思わせる鋭さを孕んだ視線でミカサちゃんがぼくを睨んだ。でもむっすりとした表情は折角の美人が勿体無いと思うほど板についてしまっている。
「そんな顔したら美人が台無しだよ」
素直に思ったことを吐露したに過ぎなかったけれど、ぼくは忘れていた。友人からまさにその性分を懸念されていた事を。直前にユミルから揶揄された事すら既に忘却の彼方とはお恥ずかしい限りだ。
だとしても発言に深い意味はなかった、感想だとさえ例えて良い。けれどきっと受け取る側からしてみれば軽薄で軟派な誘い文句にしか聞こえない……らしいから、確かに、数日間の付き合いとは云ってもミカサちゃんが見たこともないくらい頬を染めて困惑に俯くので、もしかしなくてもそのようだった。
でも女の子らしい良い表情だ、さっきのしかめ面よりずっといい。……いや、多分こういう中途半端なフェミニストでいるのがいけないのだろう。
*****
「おいミカサ!! なんだその言い種!!」
箸を机上に叩き付けて激昂したのはエレンくんだった。立ち上がった反動で椅子が倒れる。その凄まじい音にサシャちゃんやクリスタちゃんが肩を竦めて萎縮するのを目端に捉えた。
(……)
巨大な袋が勢い良く破れ裂けるような感覚が脳内にあったけれど、ぼくがその衝動に身を任せてエレンくんに苦言を呈しても事態が悪化するだけだ。この頃の歳の子は気分が高まりやすい事を分かっているのだから、大人はそれを飲み込んで諭すべきだった。