第1章 ライナー&ジャン(進撃/104期)
それに彼等は全く違う世界から突然この場に飛ばされてきた身。些細なことが起爆剤となって、緊張や不安は簡単に爆発してしまうだろう。そうなってしまえば行き場のない激情は怒りや哀しみとして表現するしかなくて、心が荒む事になりかねない。だから騒乱から縁遠いぼくが頭ごなしに抑え付けたりしたら逆の目をみる気がした。
「エレンくん、大丈夫だから。ね、座ろう」
「でもミカサは是正さんの優しさを踏みにじった、許せるわけがない!」
「気持ちは嬉しい、でもこれじゃあ皆が落ち着いて食事できないよ。ぼくの本意じゃない。さあほら、座ってごらん」
「……どうしてそんな風に落ち着いてられるんだよっ」
「ぼくが君達より大人だから、だよ」
「……っ」
エレンくんの猫みたいな大きい瞳に驚愕の色が滲む。綺麗な光彩が光源無しに煌めいているのは意思の強い表れだろう。ぼくからついっと目線を外すと、気まずそうに椅子を起こして不承不承であることを隠しもせずに座った。彼の隣に座るアルミンくんが代わりを担って頭を下げたので、それに呼応して微笑めば、見て明らかにほうっと息を吐いて安心していた。
「――で、ミカサちゃんの疑問についてだけど」
「!」
「それも、ぼくが君達より大人だから、って理由じゃダメかな」
「どういう意味ですか」
「……ぼくはね、ミカサちゃんが可愛いと思うよ」
「へっ……!?」
間の抜けた声を出したのはミカサちゃん本人ではなく、今まで事の流れをじっと静観していたジャンくんだった。本当に無意識に口を突いて出てしまったのだろう、慌てて顎先を手の甲で隠しながら短く謝ってくる。
「ジャンくんも可愛いよ」
「い、今の流れで可愛いはやめろっ!!」
「おいおいどうしたんだ、是正……」
「ライナーくんも可愛い」
「はっ!? 俺がか!?」
「俺は!」
「コニーくんも可愛い」
「わ、私は!」
「サシャちゃんも可愛いよ」
「ま、待ってください、是正さん! 話が全く見えません!」
マルコくんも可愛いよと言おうとしたところで、真っ赤になって掌を振る本人に阻止される。ジャンくんも何がなんだか分からないといった顔で汗に濡れた額に拳を当てて拭う。拭う仕草がしつこく繰り返されると、それには大した意味はないのだと悟った。彼なりの照れ隠しだった。