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日章旗のデューズオフ

第9章 【陸】玄弥&実弥(鬼滅/最強最弱な隊士)



「四半刻後、緊急の柱合会議を行うので広間の支度を頼む」
「承知致しました」
「お前も呼ぶ。その心算でいなさい」
杏寿郎さんの一日を報告する日課も今日が最後かと感慨に耽っていた矢先に、悲鳴嶼は硬い表情で振り返って下達たる言葉を食んだ。夕餉も湯浴みも済んだ夜更けに、しかも岩柱邸で柱合会議など前代未聞ではあったが、緊急の場合には常識に囚われない柔軟さも必要なのだろう。
また、柱合会議に一般隊士を招喚するのも稀だ。呼び出される心当たりは……せいぜい天元と揉めた事くらいだが、柱を集結させてまで周知する内容とも思えない。嘗て竈門が鬼の妹を連れて任務に赴いていた為に招喚されたが、それに匹敵する手抜かりをした覚えは無かった。
(……)
まぁ、早い段階で気を揉んだところで事態は好転しない。そもそも俺には不服を申し立てる権利など無いのだ。悲鳴嶼も口答えや詮索を許さない性質。お館様や上意である柱が決めた事に対して抗う勿れ、疑問を抱く勿れと教育したのは、他でも無く彼だった。大人しく流れに身を任せるしかない。
「名前」
「はい。直ぐに支度致します」
相変わらずのとめどない落涙で頬を濡らしている悲鳴嶼へ一言断りを入れてから辞すると、襖を静かに閉めて踵を返し、匚の字型の濡れ縁を進む。目的地へ向かう前に自室へ立ち寄りたかった事もあって、丁字を右へ進まなければならないところを左に曲がったのだがその瞬間、違和感を覚えて反射的に眉を顰めた。
(……なんだ?)
今宵は月がすっかり夜雲に覆われているらしい。榑縁に差し掛かれば自然と視界を満たす筈の立派な池泉式庭園が暗順応を経てようやく視認出来る程度だった。普段に比べて随分と闇の帳が深い。いくらなんでも暗過ぎる気もするけれど。
(……)
ふと胸騒ぎがして歩みを止めた。耳を澄ますと、池に張った薄氷の上を歩く、小さな跫音が鳴っている。小動物にしては軽過ぎるし、虫にしては重過ぎる。
細い針を幾度も刺しているかのような形容し難い囁かな音ではあったが、酔っ払いの方がまだ足取りがはっきりしているんじゃないかというくらいに不安定で不規則な跫音だった。

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