第8章 【伍】実弥&煉獄(鬼滅/最強最弱な隊士)
「ふたつだァ?」
「俺を景品にして賭けをしてるそうですね。どちらが先に多くの型を見せるか、でしたっけ。今の時点で炎の型は五つ見ました。だから、貴方からあとふたつ吸収して引き分けにしたいんです」
「分からねェな。わざわざ引き分けにしなくて良いだろ。煉獄を勝たせたくねェなら、風の型は全部見ちまえば良い」
「いや炎柱殿を勝たせたくないのではなく、どちらも勝たせたくないんです。彼が勝つと何を要求されるか分からなくて怖いし、貴方が勝ったって……夜が明けるまでの打ち込み稽古でしょ。なんか嫌だなって」
「っは。誰がそんな一晩の使い方するって言ったんだよ」
「違うんですか?」
「違うわ、くだらねェ。昼の内に出来る事をわざわざ夜にやる必要あるかよォ。テメェの実力は承知してんだ、今更打ち込み稽古なんざやる意味ねェだろ。時間の無駄だ」
「!」
「なに嬉しそうな面してんだ莫迦野郎。それでも一般隊士に毛が生えた程度なんだよ。俺より長期で在籍している癖に丙の階級に居座りやがって。まだまだ精進が足んねェ証拠だろ」
「っ」
乱暴に頭を撫でてくるのは彼なりの愛情表現なんだろうが、ちょっと迷惑だ。乱された髪を適当に手直すふりをしながら頭を搔きつつ、軽く尖らせた唇から深い溜め息を細く吐き出していく。少し褒められただけで浮き足立つような己の情けない性質ごと呼吸で排出されれば良いのに。そんな都合良く不必要なものが出ていくなら世話無いけれど。
「ふ、……ッ?」
溜め息が尽きた時、不意に頬へ熱が灯った。内発ではない。外発だ。顔を上げて熱の正体を突き止めるまでも無く風柱殿の掌が頬に触れたからだと分かる。頬の一番高い部分に有る瘡蓋を親指の腹で撫でられると、山椒の実を噛んだ時みたいなピリリとした痛みに混じって、微睡みの内に居るような甘く蕩ける熱が浸透する。悲鳴嶼に触れられた時とも、杏寿郎さんに触れられた時とも違う低温の熱。彼だけが持つ、柔らかな熱だった。
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