第8章 【伍】実弥&煉獄(鬼滅/最強最弱な隊士)
(こういうとこが調子狂うんだよなぁ……)
天元が現役だった頃、徹底的に奴を避けて立ち回っていた俺に「何故、宇髄を避けている」と声を掛けてきたのが始まり。アイツの事になると甚だしく視野が狭くなるから、どういう風の吹き回しなのかを考える余裕は無かった。
再度放たれた「奴とはどういう関係だ」という至って単純な問いに対して、得てして真実を口にする以外の答え方が無く、生まれた土地が同じである事と、俺にとって異母兄であり異父兄である事を赤裸々に伝えるほか無かった。
すると、「仲悪ぃのか」と感情の見えない冷静な声音で問い掛けを重ねてきたから「良く分からない」と吐露し、続けて「遙か昔は互いを気遣うくらいの会話もした仲でした」と素直に答えれば、彼は安堵したように「そうか」と吐息を噛み締め、今みたいに髪を乱す勢いで頭を撫でてきた。
――恐らくこの瞬間から風柱殿は、俺を重ねて見るようになったのだと思う。時に己と重ねて見る事で、玄弥を突き放す自分の正当性を確かめたり、時に玄弥と重ねて見る事で、そうして突き放した相手が嘗てのよすがを忘れないでいる喜びに、愁眉を開いたり。
(……傷を舐め合う獣みたいだ。まぁ……風柱殿がそれで少しでも癒えてるなら、俺は、別に)
実際のところは分からない。どうして風柱殿が天元で揶揄うのかも、どうして出自を無闇に吹聴せず二人の内だけで留めてくれているのかも、どうして弱味を元手に付け入って使役しようと思わないのかも、分からない。俺が構え過ぎなだけなんだろうか。
「……あァ? 急に黙りこくってどうしたァ、岩注連」
「ん、いえ。あ、もう身体温まりましたね」
「露骨に誤魔化しやがったな、おい」
薄明弧を染める紫光のような瞳が、珍しく瞼に隠れて俺を睨め付ける。「貴方の事を考えてました」なんて照れくさい事は風柱殿相手に言いたくないので、怪しまれても構わずに話を逸らした。まぁ実際に杏寿郎さんと別れて四半刻が経とうとしているし、これ以上は悠長にしていられないだろう。
『木刀を鹵獲して俺の要望を聞いて貰おう作戦』も失敗に終わった今となっては「そろそろ型を見せて下さいませんか、ふたつくらい」と身も蓋もなく懇請するくらいしか出来ないが、やはり食い下がってきた。
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