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日章旗のデューズオフ

第8章 【伍】実弥&煉獄(鬼滅/最強最弱な隊士)



打竹は火種を仕込んだ竹筒の事。硝石を含んだ導火線を内部から引き出すと、空気に触れた火種部分が線香のように燻り始める。また、竹筒に開けた無数の穴から少しずつ酸素を供給し続けるため、緩やかに燃え続けるし、鎮火する事も無い。
如何なる時でも即座に火を焚けるように、鍛錬や稽古の折は必ず携帯している。火打石と違って、種になる枯れ草などに火花を移して息を吹き込むといった工程を全て省けるから圧倒的に此方が便利だ。今にも凍死しそうな風柱殿には特に有難い代物だと思う。やっぱり開襟し過ぎだったんだよ……。
「風柱殿、すぐ横に座って下さい。人肌も分けます」
「チッ……テメェのせいで……とんだ災難だ」
「川に入ったのは貴方の意思ですけど」
「あ"ァ"?」
「何も言ってません」
凄む割には素直に身体を密着させてくるのだから、天邪鬼な御方だ。まぁそこまで執拗い恨み言を吐くなら仕方無い。楽立て膝で暖を取る彼の、丸見えの懐へ予備の打竹を突っ込んでやった。なのに「どこに手ェ入れてんだ殺すぞ」と、厳しめな暴言で忌避された上に額を指で弾かれる。
なんだよ、火種の熱が竹筒をほのかに温めているから懐炉にもなる優れものなのに。それなら返して貰おうかと再び手を伸ばすけれど、彼は自らの隊服の袷を掴んで打竹を隠す仕草をしたので、やはり天邪鬼だと頬を膨らませてみせた。
「テメェのその腰の嚢は無尽蔵なのかァ?」
「……」
「他には何が入ってる」
「……秘密です」
「っは。何を今更惚けてンだ。忍の六具って奴だろ。薬が入った印籠か、それとも石筆かァ?」
「ぐ、ぐぬぬ……良くご存知で……」
今の今まで震えていた癖に、多少なりとも身体が温まって気力に余剰が生まれた途端これである。鼻で嗤った後、強引に肩を抱いてきたかと思えば、節榑立った長い指を広げて髪を掻き乱すように頭を撫でてきた。ついでとばかりに掠れた低い声で意地の悪い事を吹き込んでくる。
「宇髄も同じもん持ってんのか」
「……知りません」
「へえ? そうかよォ」
何を隠そう風柱殿は、俺が忍の里出身である事を知る唯一の人である。天元が血の繋がらない兄貴である事を知っているのも柱の中では彼だけだった。だからという訳じゃないけれど、二人きりの時は結構な頻度で話題に挙げるし揶揄ってくる。

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