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日章旗のデューズオフ

第8章 【伍】実弥&煉獄(鬼滅/最強最弱な隊士)



「えッ、おいッ!」
突拍子も無い行動に思わず仲間言葉で呼び掛けてしまったけれど、一先ず理非曲直を明らかにして貰うのは後回しだ。鈎縄を放り出して駆け寄り、西に傾き始めた陽光を背負いながら渡渉を遂げた彼の前腕を握る。噫、もう冷たい。
本来であれば萌葱色の光沢が鮮やかな裁付は、冷水をたらふく含んで変色してしまっているし、尾錠のようなものが付属した巻脚絆からも短衣の筒袖羽織の袂からも、夥しい量の川水が滴っては足元に水潦を生んでいく。
それを見た瞬間、カッと頭に血が昇って「何を考えてるんだ」と怒鳴りそうになったが、咄嗟に唇を噛む事で強制的に言葉を飲み込んだ。一時の怒りに任せて闇雲に怒鳴る事と、これに対して諌める事は、また別なのだから。
そして、いざ「無茶しないで下さい」と心を砕いて顔を覗き込むと、それまで大人しかった風柱殿が突如、朱殷に染まった気魄を濡れそぼった身体から吹き出させた。そして激昂しながら手を振り払い、その体重移動のまま俺の脳天を殴打した。
「るせェッ!!」
「拳骨痛いッ!!」

***

「早く……火ィ起こせェ……ッ」
「分かってます。あの倒木の前へ急ぎましょう」
「……おう」
俺の脳天に強烈な拳骨を見舞ったあと、「稽古の趣旨を捻じ曲げんじゃねぇ」だの「反撃は許可したが初動で攻撃を許した覚えはねぇ」とか何とか怒鳴り散らしていた風柱殿は、当然の事ながら次第に顔色を悪くさせ、歯の根が合わなくなった。極寒の冬の渓流に飛び込めば誰でもこうなる。
話は逸れるけれど、悲鳴嶼の柱稽古はこれに加えて滝に打たれるわけだから本当に過酷なものだ。柱でこんな状態に陥るというのに、一般隊士なんか死に物狂いだろうな。
話を戻す。倒木が自然の腰掛けとなっているところを指し示して風柱殿を誘導し、背嚢から打竹と三尺手拭を取り出して段取り良く焚き火を拵えていく。手拭を割いてから軽く丸めて足元へ、そこに打竹を放り込んで踏み割ると直ぐに煙が出て、膝丈の炎が上がった。

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