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日章旗のデューズオフ

第8章 【伍】実弥&煉獄(鬼滅/最強最弱な隊士)



(……杏寿郎さんってこんなに眉目秀麗な方、だったか)
結局のところ、彼が養生されるまで接点らしい接点は無かったから――どちらかといえば槇寿郎様の方が馴染みがある――俺にとっての煉獄杏寿郎とは、吹けば掻き消えそうなほど儚い、灯火みたいな人で。恢復されてからも前評判通りの闊達さを目の当たりにしたのは随分後だったし、気早な性分と感情の撥条が伸び切った人当たりはご愛嬌としたって、基本的には朗らかな優男という印象が強かった。それなのに。
(……かっこいい、とか、思っちまったな)
――目の前で腕を組みながら仁王立つ男は、実直そうな眉を歪めながらも紅蓮の珠を爛々と輝かせ、愉悦へ浸るように雄臭く笑っている。この人も気分が昂ると左右非対称な妖しい笑みを噛む事が有るんだと知った瞬間、肋の中が俄かに騒いだ。
(……?)
金環の双眸が俺を射抜いている理由が判明した時も、今も、腹の底が疼くような面映ゆいような、居心地の悪さを抱いてしまって気味が悪い。取り敢えず胃の腑の辺りを擦りながら「勝手に賭けの景品にしないでください」と、非難を口にして誤魔化した。
「時に名前、風の呼吸はいくつ見た」
「え、あー……三つ、ですかね」
「では此方が優勢だな。俺が君に見せたのは先程の弐ノ型・昇り炎天で五つ目だ」
「左様で」
「いま君に披露出来る型は残り一つ。陸、漆、捌は条件により都度使用の可不可が決まる複雑な型。故に、玖ノ型を披露して終いとなる」
「……」
心のどこかで残念に思う自分が居る。空蝉のせいで悲鳴嶼以外の柱や隊士――雷の呼吸はもはや事故だった――が戦う姿など終ぞ見た事が無かったが、あそこまで迫力のある雄々しい太刀筋がこの世にあるものかと素直に感動した。玖を最後に新しい型はもう見られないのか……と肩を落としそうになる。
心奪われた要因はそれだけでは無い。正しい呼吸には玉響の幻が付き纏うと聞き及んでいたが、実際に目の当たりにすると余りの美しさに言葉を失った。本物と見紛う幻炎に、強烈に惹き付けられてしまったのだ。竜の鬚を撫で虎の尾を踏むに等しい、『もっと近くで齧り付いてでも眺めたい』という心理だ。飛んで火に入る夏の虫ってこんな感覚なんだろうか。
(……こうなったら色々な呼吸が見てみたい。癪に障るが、鬼事を提案した風柱殿には感謝しないとならないかもな)

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