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日章旗のデューズオフ

第8章 【伍】実弥&煉獄(鬼滅/最強最弱な隊士)



悲鳴嶼の所有する山は、鬼殺隊本部の中でも特に異質な存在である。邸の建つ山麓辺りは別として、滝壺が有る中腹以上の標高は鍛錬や稽古の為に敢えて間伐を行わず放置している。陽光が地表に届かず、下層植生がほとんど存在しない。そんな、天を衝く樹幹が寄り集まる鬱蒼とした森の姿に、圧倒されているうちならまだ可愛い。
腐朽の末に落下した枝や枯れた葉が蓄積する上を走ると、否応無しに弾けた音が鳴り、それが予想も付かない角度で木々の合間を谺していくのだが……視界の悪さに加えて残響が延々と止まない広大な空間は、得体の知れない恐怖を助長するのだ。
(……ッ畜生)
二人の柱から全力の追跡を受けている時は、尚更に。隠れる場所など殆ど無いから只管に走り続けるしかないわけで。そうなると、自分の足の下から湿った破裂音が鳴っているのか、それとも直ぐ傍まで迫るどちらかの跫音が響いているのか、良く分からなくなってくる。
走れども走れども景色が変わらないここは、視野を極限まで狭めて方位感覚すら狂わせる……所謂、陥るところ。異質な存在ながら、稽古の為の山と云われる所以である。
「見つけたぞッ! 名前ッ!」
「ッ!」
谺に意識を向け過ぎて不意を突かれた。一瞥するより疾く、死角で炎模様の羽織が羽撃く気配がする。炎の呼吸は広範囲を薙ぎ払う高威力の技が主体らしいが、本人が敏捷性に富んでいても型を熟す時だけ両脚で大地を踏みしめる必要が有るようだ。だからといって全く隙がない。何故だと考えている余裕も無い。
(全身を視認出来たッ、けど、あァこのッ、反応出来ねぇッ!)
一見すると居合斬りに似た低い姿勢から弧を描くように振り上げられた木刀の切先は、猛炎の荒波を纏いながら鋭い軌跡で眼前へと迫る。燃ゆる気魄に圧倒されて身体が動かないようでは無事で済まない。
(動けッ! 動けよ身体ッ!)
深層の筋肉が上げる悲鳴を無視しながら半身を捻る。間一髪のところで避ける事が出来たが、せっかく結び直した面頬の組紐がまた斬られてしまった。なんで鋼の刃を持たない木刀で紐が切れるんだろうか。風柱殿といい彼といい、柱の膂力は想像以上に桁違いなのだと再認識する。

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