第5章 SSS キャラ×男主:漫画作品篇(―/2日更新)
★GK月島基(同衾主続き)
『……月島だ』。――彼は自己紹介の際に僅かな間を空けながら意図的に名前を伏せた。鶴見に謀られた事を考えれば名前を呼ばれまいという意思も理解出来る。俺は彼の名前を漫画で知っている身だが、彼が名乗らなかった以上は知らないものとして振る舞うべきだった。やっと気を許してくれた月島が不気味がって距離を取ってくるような事になれば、今度こそ傷付く自信がある。俺も月島もだ。
少しそういったデリケートな部分に触れないよう努めて警戒していた最中に、またしても事件が起きる。いつも通り夕飯を作る為にシンクの前へ並ぶ俺達。その時、腕まくりをしながら発した俺の何気ない台詞がトリガーになってしまった。
「始めにちゃんと手を洗いましょうか」
「……――!」
『はじめにちゃんと』。この言葉が月島には『はじめ兄ちゃんと』に聞こえたと言う。押し黙った月島の顔を見ると切なそうな表情へ歪んだ喜色の笑みを乗せていた。俺を捉えて離さない淡い碧緑色の瞳が、新たな執着心の拠り所を得て悦ぶように怪しく燻って見えた。
★GK月島基(同衾主続き)
仕事用のバックパックに最新作のゲームソフトを突っ込む。忘れ物がないことを確認したら足音と気配を殺してゆっくり寝室を出た。今回のコラボはクリアするまで帰れない趣旨の徹夜企画だから夜中に家を出て朝方に帰宅する予定だ。月島達が寝静まる頃を見計らって家を空けなければ家事に支障が出てしまうし、見つかりでもしたらどんな詮索をされるかも分からない。『ぶいちゅーばー』とか言っても分からないだろうし。
「こんな時間に何処へ行く」
「いたいっ」
上がり框に座って靴紐を結び、バックパックを背負って立ち上がろうとすれば、ぐんっと両肩を掴まれて引き落とされるからフローリングに尻を打ち付ける羽目になった。見上げた先、額に吹きかけられる低い呼吸は月島のものだ。
「つ、つきしまさ……」
「もう一度聞くぞ。夜中に何処へ行くつもりだ、苗字くん」
言うまで離さない――そんな不吉な笑顔が逆さまから落とされるから、俺は『ぶいちゅーばー』をうまく説明出来なくて危うく遅刻しそうになった。
→