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日章旗のデューズオフ

第1章 ライナー&ジャン(進撃/104期)



「ジャンくん、怒ってたんじゃ……」
「ジャンは点数稼ぎに必死なんだ」

撫で回されていた頭部が引き寄せられてライナーくんの乾いた唇が偶然にも耳たぶに触れる。瞬間的に今朝の冗談が想起されてドキッとしたが、彼にそのような素振りはないため本当に偶然のようだ。
そして囁かれた点数稼ぎという言葉。あまり馴染みのない言葉だった。他者を表現する際に良い意味では使われない言葉だとも思う。言いたいことが分からなくて、眉間に力が籠った。

「どういうこと?」
「お前に失望されたくないんだろ」
「失望……」
「悪いが俺から言えるのはそれだけだ。好敵手に花を持たせてやれるほど余裕もないんでな」
「……何を言いたいのか分からないよ」
「俺はその方が都合が良い」
「……」

その内に朝食を摂る為にみんなが台所に集まってきてしまったため、強制的にこの場は解散となった。圧迫が即座に消えた腕の感触からジャンくんがぼくから離れていくのが分かった。まだ話は終わってないよとかまた後でねとか、そういう間を繋ぐ言葉すら聞いてくれないみたいに。後ろ髪を引かれる思いで彼の去る背中を見詰めていれば、面白くないと書かれた顔を隠しもしないライナーくんにむりやり腕を引かれ、再び台所の暖簾を潜る。

*****

朝食のメニューは残り物の肉じゃがと味噌汁と市販の漬け物だ。肉じゃがは人数も居るし、いっぱい作っておいて損はないだろうと思って割増で張り切ったのだけど、予想外にもサシャちゃんが大食で、殆んど一晩のうちに消えた。お肉もお芋も大好物だという。美味しそうに食べてくれるから気持ちよかったくらいだけど、夕飯の残りを朝食に回して食費を少しでも浮かせるという戦法が取りづらくなってしまったのは事実だ。
食事の仕方に決まりは作らなかった。すきな調味料を使って良いし、おかわりも基本的には自由にした。洋服や日用品で彼らに我慢を強いらせている代わりに食事は心ゆくまで楽しんで欲しかったからだ。彼等の世界は食料不足に喘ぐことが当たり前だったというから、演繹的思考を持ってしても自然と導き出せた結果だと思う。
でも大食の子がいたのは本当に予想外だった。比較的身体が発達している二人を差し引いても皆あんなに細いのにな。然りとてそれだけご飯が満足に食べられなかったということかもしれないから、やっぱり食事はこれからも自由にしてもらうべきなのだろう。
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