第7章 【肆】煉獄&実弥(鬼滅/最強最弱な隊士)
しかし、後から般若を背負った蟲柱殿の執拗なお叱りを受けたくなかった俺は逸る杏寿郎さんを宥めようとしたのだが、その大音声は蟲柱殿と入れ違いで訪ねてきた風柱殿の耳にも入ったらしく、なにゆえか「その喧嘩、俺も混ぜろォ」と和室に乗り込んできて……今に至る。いや至るな頼むから。
「確かにこれは鍛錬じゃありません。俺の日常的な仕事です。でもこれって屁理屈と言いませんか」
「ただ座して待つより身体を動かしていた方が良いに決まっている! どれ、次は俺がやろう!」
巌から腰を上げつつ息巻いた杏寿郎さんは、風柱殿の頭に羽織を脱ぎ飛ばして近付いてくると、衣桁扱いされて怒鳴る彼など柳に風で、汗を拭う俺の手から鈇鉞を掠め取る。
「鍛錬許可が出るまで呼吸は使わないで下さい」という俺の願いを聞き入れて自力で伐倒に精を出している姿を見ていれば、まぁ確かに杏寿郎さんにしては辛抱強く養生していた方か、と苦い笑いを噛むしか無かった。些細な運動だけれど、何処と無く嬉しそうだ。
「おい、岩注連ェ」
「はい」
杏寿郎さんが座っていた巌に寄り掛かるように座り込むと、炎模様が揺らめく羽織を律儀に畳んで小脇に置いた風柱殿が声を掛けてきた。白雪のように美しい乳白色の髪を掻き上げながら俺を一瞥する。
「テメェ、俺との約束を何日もすっぽかしやがったなァ」
「……やくそく」
「俺の屋敷で命の殺り合いする約束してたろうが。まさか忘れたとは言わせねェ」
「あ」
「今の『あ』は何の『あ』だ、オイ」
しまった、失念していた。すっかり風柱殿に謹慎処分中であることを伝え忘れていたのだ。鴉も飛ばし忘れていた。何故に朝っぱらから岩柱邸に乗り込んできたんだと思っていたら、この為か。
でも約束はしてないと思う。竈門が初めて邸の門戸を叩いた前日から翌朝にかけて鬱憤晴らしには付き合ったけれど、確かに「また明日もやるからなァ」とは言われたけれど、あれは一方的な希望であって約束に該当しないのでは。
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