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日章旗のデューズオフ

第7章 【肆】煉獄&実弥(鬼滅/最強最弱な隊士)



自由な左手でやんわりとしのぶの小さな足を退かして身体を起こす。彼女が上がり框に立っていても、土間叩きに立つ俺の方が幾らも頭の位置が高い。それ程までに身長差が有るにも関わらず、睨み上げる威圧感は衰えなかった。
「言われるまで気付けなかった、悪い。しのぶに従うよ。俺自身の鍛錬は炎柱殿の復帰後にする。だからもう怒らないでくれ。君に怒られると弱いんだ」
「おもねりは結構です。ですが英断だと思います。さあ、草鞋を脱いで共に煉獄さんの元へ向かいましょうか」
「え、流石に俺が行く必要はないだろ」
「一緒に、行きますよ、木偶の坊」
「はい」
笑顔が怖ぁい。

***

冬の乾燥で捲れた樹皮が目立つ檜の幹に、鈇鉞が食い込んで数多の維管束を断つたび、カァンカァンと甲高い音が辺りに鳴り響く。大木を倒すのも、運ぶのも、柱稽古に使用するため三本一纏めにするのも、それを薪木に転用するために薪割りを行うのも慣れた仕事だが、傍らに二人の柱がいる場合はそうとも言いきれない。
「名前の筋質には惚れ惚れしていたが、よもや樹木の伐採も一助となっているのか!」
「……」
「そしたら樵夫の連中は軒並み筋肉達磨になんだろうがァ」
「……」
――あれから蟲柱殿の往診は滞りなく終わった。経過も良好だと判断した彼女は、このまま産屋敷邸へ向かうのだという。お館様が炎柱復帰をお許しになられる判断材料は充分だと微笑むと、俺達の見送りを固辞して、蝶の羽織を翻しながら邸を後にした。
さて、『炎柱復帰までは鍛錬をしない』と彼女と約束してしまったからには邸の中……正確には杏寿郎さんの傍に居なくてはならず、済んでいた支度を解く必要があった。
正直、詰襟裁付の隊服や腰の革ベルトは俺にとってしてみたら窮屈なものだ。早く縫製係の前田に依頼して寸法を測り直すところから手を付けて貰わないと、肩も胸も大腿も尻も、筋肉量の多い張り出した部分が裂けそうだった。
(山を降りる許可が出ねぇからこんな事に……)
上衣の釦を二つ外して、無意識に苛立ち混じりの長い溜め息を漏らすと、傍らで一身上の喜びを噛み締めていた杏寿郎さんに勢い良く脱衣の手を握り込まれた。
驚く間もなく鼻先一寸まで顔を近付けられ、「支度を解くのは早い! いつ鍛錬の許可が出ても良いように、今の内に山へ向かおう!」と吠えられた。気早な性分もここまでだと感嘆に値する。

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