第5章 SSS キャラ×男主:漫画作品篇(―/2日更新)
★GK尾形百之助(同衾主続き)
見切り発車で恐る恐る日々を過ごしていたが、尾形は思いのほかお宿ごっこの生活を満喫していた。一人暮らしが長い俺の小技が光るプチプラご飯に舌鼓を打ってくれるし、小さな湯船も文句を言わずに使ってくれる。頭を洗って髭を剃って背中を流して……そこまで尽くすと、大抵は前髪を撫で付ける例の仕草からのふんぞり返る姿勢を見せる。いかがわしい雑誌の後ろの頁で札束の風呂に入っている男みたいな姿だなと思った。
そんな日々に変化が訪れたのはごっこ遊びも二週間が経った頃のこと。さんが焼きとお酒で晩酌を勧めながら「尾形さん、どうぞ」と言った時、尾形が鼻で嗤って俺の胸ぐらを掴んだ。
「!」
「『旦那様』と呼べ」
「……はい?」
「宿屋の連中は続柄を呼び分けるもんだぜ」
「そ……そういうもん、スか?」
まぁ提案しておきながら宿働きなんてしたこと無かったし、尾形の方がこういったことには詳しいだろう。そう判断した俺が「分かりました、旦那様」と素直に頷くと、尾形の表情が初めて喜色に歪んだ。
★GK尾形百之助(同衾主続き)
従順な態度をとる俺に気を良くしたのか、最近は尾形も平然とものを申したり我儘を言うようになった。それでも生活を制限しているお陰で、何が出来て何が出来ないかが想像しようもないのだろう、無茶な事は決して言わなかった。
「おい。液体の洗髪剤変えろ。頭から甘ったるい匂いがするのは気持ち悪い」
「……あー、シャンプーか」
他にも整髪剤とかボディソープとか柔軟剤に至るまで、ありとあらゆる濃い匂いを嫌った。ここまできて察せられたのは、尾形が自身の気配を断ちたいと思っている事。雪山で温かい呼吸を抑える為に雪を口に入れるくらいだ、自分から判り易い匂いが立ちのぼる事を嫌ったのだろう。
「旦那様、口が過ぎるようですけど、この世界では貴方を傷付けようって人はいないので、まぁこの部屋から出ない訳ですし、いくら貴方から甘い匂いがしても誰も気付かないというか」
「ハハァ、言うもんだな。監禁してお前と同じ匂いまで馴染ませて、俺をどうしたいんだ」
「改めてまとめられると俺のしてる事マジやべぇな分かりました旦那様の言う通りにします」
ノンブレスで捲し立てて土下座をすると、頭の上で尾形の鼻で笑う声が微かに聞こえた。決めた、お宿ごっこ止めよう。
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