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日章旗のデューズオフ

第5章 【弐】宇髄&煉獄(鬼滅/最強最弱な隊士)



「だらしねぇツラしてんじゃねぇぞ……」
「だらしなくもならぁ。警戒心剥き出しの生意気な愚弟をやっとの思いで手懐けたんだ。これでようやく第一歩だな」
「ッ懐いてねぇよ。あとその声やめろ気色悪ぃッ」
「名前クンは俺の美声で派手に腰が抜けちまって動けねぇか。威勢が良かろうが生娘みてぇな反応してる内は、ちっとも怖かねぇ――」

***

「何をしている」
昔取った杵柄か、出し抜けに響いた一声に反応して視線を差し向けたりしなければ良かった。見事な本鳥の子紙の襖で間仕切りされた内法物の中心で、炎柱殿が腕を組みながら仁王立ちしている。
格好を含めた輪郭こそ浮かび上がらせているものの、肝心の体表は陰影を濃く被っている為に不明瞭だ。それでありながら焔色に嵌った金環の双眸だけは赫赫と輝いている。彼が紛うことなく煉獄杏寿郎であると理解せしめて、背筋がぞくりと凍り付いた。
(……怖、い)
撥ね付けても撥ね付けても限りが無い天元の戯言のせいで気疎い気炎に満ちていた血潮は、それを遥かに上回る炎焔の気魄を感じた途端、急激に燻っていく。多くを語るべくもなく其れが答えなのだ。炎柱殿は怒りに支配されている。それも極めて峻烈に。
「炎柱、殿……何故、こちらに」
「俺が聞いているんだ。宇髄と何をしている」
「ッ」
再度問われてから炎柱殿の怒りの理由を知る。客観的に見た俺達はどう見ても私闘のさなか。立派な隊律違反だ。規律を重んじる真面目な彼は決して其れを許さない。そして、結論を急ぐ気早な性格の彼に見咎められてしまったという事は、決して軽い処罰では済まされない。
此方の事情はどうであれ、己の眼に映した事実だけが炎柱殿にとっての全てだ。厳粛な判断に基いてお館様へ報告をしたとして、諭旨程度ならまだ可愛い。下手を打てば鬼殺隊を罷免、最悪の場合、斬首される。
「もう一度聞く。宇髄と何をしているんだ。答えなさい」
「天ッ……音柱殿に!……ね、閨の! 閨の作法を! お伺いしていました!」
混乱した脳はこれが妙案だと思ったらしい。咄嗟にしては良い言い訳だと誤認する。筋肉達磨同士が絡み合っているから絵面が惨いだけで、畳に押し付けられて手首を固定されて顔を極限まで近付けられている格好だけなら、今まさに致そうとしているように見えなくもないなどと……信じられない結論に辿り着いてしまう。

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