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日章旗のデューズオフ

第5章 【弐】宇髄&煉獄(鬼滅/最強最弱な隊士)



「そうかよ。なら望み通り大真面目に向き合ってやらぁ。だが先ずは俺様を見ろ。話はそれからだ」
「……」
言うに事欠いて「自分を見ろ」だと。何故? 視界に入れたくないから適当にあしらって立ち去るまで間を繋いでいるのに。絶対に見たくない。つうか大前提として関わり合いたくない。根本的な部分から食い違ってるんだよな。
だから俺は『振り向く』という簡単な要求すらもばっさりと切り捨てて無視を決め込んでしまう。再び抽斗の奥へ手を入れて目的の物を探し始めたが、結論から言うと、この態度が奴の逆鱗に触れてしまった。
「……いい度胸してるぜ、名前」
「ッ!」
刹那――人中の搦手である後ろ頚にべったりと何かが張り付いた。妙に温かくて湿り気を帯びているそれが天元の掌だと気付いたのは、次の瞬間、或る日の悲鳴嶼の様に革帯を思い切り引き掴んだからだ。
「ぐ、ぅ……っ!?」
「糞餓鬼が。悲鳴嶼の旦那みたいに躾が必要か? 対話くらいまともに果たしてくれねぇと困ンだよ。何時までも意地張って生意気な態度を取り続けようってんなら……こんな事じゃ済まさねぇ」
耳輪が食まれる距離から抑揚の無い低い声が鳴る。加虐的な科白が鼓膜を掻い潜って脳髄にじっとりと絡み付く感覚は馴染みがあった。修行の一環で親父に打たれた毒が意識を混濁させようと血管の中を只管に奔り回っていた時と似ていた。
さすが毒蟲。切っ掛けはどうであれ頭に血が昇った途端、陰湿で執念深い本性を晒け出して実力行使か。やはりそうこなくては。己の中の道理を言われるがまま捻じ曲げたお前が、姉弟の屍を踏み越えて足跡を穢してきた罪科を、たった数年で忘れちまったのかと思った。忍は、宇髄は、お天道様の下で人間らしく振る舞う事など、赦されない。
(お前の中も……、血腥い業で満杯の筈だ)
毒を以て毒を制すように、俺も負けじと天元のかぶりを引き掴む。長い毛髪が仇となって掴み易いったらない。前線から退いたからといって無防備な容姿は改めるべきだ。陽に透かした水簾みたいな銀糸が、俺の逆手の中でギシリと悲鳴を上げる。

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