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日章旗のデューズオフ

第5章 【弐】宇髄&煉獄(鬼滅/最強最弱な隊士)



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日陰が深く差し込む和室の中へ踏み込むと、脱いだ羽織を投げる様に衣桁へ引っ掛けた。炎柱殿が居る和室とは対極的なこの場所は、悲鳴嶼に充てがわれた俺の私的な一室だ。誰の目にも触れさせないという強い意志を感じるここも、住めば都と言うか、慣れてくると静かで具合が良い。
書生シャツの袖をぐんぐんと捲り上げ、台襟と第一の白蝶貝釦を片手で外すと、長く細い溜め息が無意識に唇を震わせた。そこに来てようやく自分が緊張していたのだと自覚して、炎柱殿と顔を合わせると決まってこうだな、と眉尻を下げた。
「さぁて、鋏は確か箪笥にしまった気が……」
炎柱殿が昼餉を終えた後は予定通りに彼の散髪だ。それが済んだら邸の周囲を散歩する。筋肉が固まらない為にも一時間くらいの軽い運動は欠かせない。悲鳴嶼に謹慎処分を言い渡されてなければ、山を降りたりも出来たんだが。
(ま、炎柱殿は笑って許してくれたし。俺と並び歩く事に意味があるなんて、気を使われちゃあな。俺も……気は張るが、あの人と一緒に居るのは結構好きだし、暇が潰せて助かるけど)
「ほーう? 聞き捨てならねぇな」
「心読まないでもらって」
桐箪笥の抽斗を一段ずつ物色して鋏と櫛を探す俺の頭上から不機嫌そうな声が降ってくる。いつの間にか読心術を使う毒蟲の不法侵入に遭ったようだ。当たり前の面して人様の邸に入り込んでくるなんて、非常識な奴。
「性格良し・器量好しのド派手なお兄様を差し置いて煉獄が好きたぁ、妬けるじゃねぇかよ」
「そういう軽薄な言葉が腹に据えかねるって分からねぇかな」
振り返りもせず突慳貪に吐き捨てると天元の喉から矢羽根が翔んだ様な鋭い音が鳴った。それから舌打ち。俺の反応の悪さなど今に始まった事でもあるまいし、分かり易く不満を露わにする態度はかえって滑稽に思える。
鼻を明かされた腹癒せに意地を通されても面倒だが、兄だ弟だ家族だと、いつまでも眠い絵空事を言われ続ける身にもなって欲しい。雨垂れ石を穿つとは言うけれど、穿つ相手の意志が固いなら意味が無いよなぁ。なーんて。

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