第5章 【弐】宇髄&煉獄(鬼滅/最強最弱な隊士)
(そこから良くここまで……。目覚ましい快復って奴だよな)
鍛錬を欠いていた為に筋肉量は落ちてしまったが、食事は良く摂っているし、言葉も朗々としていて咳嗽の症状もない。そして何よりも、焔色の髪がまた生え揃ってきた。毛先は未だ鴉の濡れ羽色を有するが、今日辺りで散髪してしまえば以前の姿に元通りだ。
「岩注連、本日の昼餉はなんだろうか!」
「さつまいものご飯とさつまいもの味噌汁です」
「わっしょい!」
「っはは、食べてからお願いしますね」
好物を前にした炎柱殿の破格の大音声に、つい失笑しながら敷居を跨ぐ。ほっくりさつまいもがふんだんに入った味噌汁鍋と、五合分の炊き込みご飯で蓋が浮いたお櫃は、満面の笑みで追従してきた竈門が運び入れた。
柱稽古の真っ最中だというのに、炎柱殿が悲鳴嶼の邸に居ると知るや否や「無限列車で煉獄さんにはお世話になったので、どうしても直接お礼がしたいんです」と言って聞かなくなり、仕方無くこうして手伝わせているが、これも悲鳴嶼に見付かったら大目玉な予感。
「竈門少年か! 久しいな! 息災で何よりだ!」
「はい……! 煉獄さんも、本当に良かったです、ご無事でっ……!」
そもそもの話、竈門も無限列車に乗り込んでいたんだな。後々になって鎹鴉に「珍しく報告漏れか」と問うたが、炎柱殿の事で感情が揺らいでいた俺には不必要な情報だと判断して敢えて伝えていなかったらしい。
普段であれば『今日の姐さんは米を七合平らげた』とか『水柱殿が蕎麦屋で大食いしている』とか、題材が片寄った要らない情報まで告げて来るのに。俺の感情を慮って情報の取捨選択が出来る優秀な鎹鴉である。
「俺が気を失った後、上弦はどうした」
「森へ逃げ込みました……」
器用にも配膳を欠かさない竈門のお陰で、炎柱殿は時折相槌を打ちながらも丁寧に咀嚼し、食事を進めている。『良く噛んでゆっくり食す』という悲鳴嶼の言い付けをしっかり守って貰えているようだ。
とはいえ相槌とはまた別に「うまいッ、うまいッ」と吠える彼には苦い笑みを噛むしかなかったし、全く動じることなく近況を告げ続ける竈門の胆力に頬が引き攣ったが、二人の間に穏やかな空気が満ちていれば、野暮な事は何も言えなかった。
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