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日章旗のデューズオフ

第5章 【弐】宇髄&煉獄(鬼滅/最強最弱な隊士)



「炎柱殿」
「君か! さあ、入れ!」
陽射しが深く差し込む和室の中へ声を掛けると、炎柱殿は焔色の髪を優しく揺らめかせながら俺を振り返った。張りのある大音声を聴くだけで、今日もすこぶる調子が良さそうだと胸を撫で下ろす。
(意識が戻って直ぐ、此方へ養生に移られた時は酷い窶れ具合だったからな……。つい健康状態に気が回っちまう……)
――無限と名の付く列車の調査へ向かった炎柱殿が上弦の鬼と邂逅し、死線彷徨う仕儀に立ち至りと報告を受けた時、血の気が引いた。一歩間違えれば心の臓が損傷していたらしく、そうなれば失血死していた……と隠の後藤が青冷めながら言っていたのも記憶に新しい。
しかし、一命は取り留めたものの胸部を強く殴られた事で片肺の機能が失われてしまった。その影響で彼は一時期、言葉もまともに発せられなかった。囁く様に話しても直ぐに息が上がって咳が出てしまい、咳嗽に苦しめられればその分、体力が削られている様子だった。
(彼が黒い髪を生やし始めた時も、肝が冷えたな……)
以前、本人から髪色にまつわる話を聞かされた事があった。煉獄家に古くから伝わる仕来りのお陰で歴代男子の髪の色は焔色になるんだそうだ。仕来りとは、身重の母が七日おきに二時間ほど大篝火を見込み続ける儀式を指すという。
産まれる前から神聖な炎に関わる事で美しくも猛々しい風貌を持って生を受けた煉獄杏寿郎の髪が黒い。その衝撃は俺だけに留まらず、度々様子を確認しに訪れた蟲柱殿も同じように戸惑っていた。
そんな状態では全集中・常中など以ての外で、これ以上衰弱したり恢復が見込めなければ、炎柱としての責務を一度お館様に返上するという話まで持ち上がるほどだった。
だが……炎柱殿は、煉獄杏寿郎という男は、誰よりも人々の平穏と普遍的な営みを愛し、豪胆に守り抜いてきた男である。悲鳴嶼や蟲柱殿から柱の引退を考えたらどうかと諭された折も断固として首を縦に振らなかった。そうして俄かに現実味を帯びていった危機感は転じて、彼の生きる気力を燃やす理由として充分であったらしい。

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