第1章 ライナー&ジャン(進撃/104期)
「おはよう。ジャンくん、マルコくん」
「……」
「おはようございます。あの……今朝は起こさなくて良かったんですよね、ジャンからそう聞いてたんですが」
「うん。自然と目が覚めちゃっただけなんだ」
「あ……そうなんですか」
ジャンくんの立場を思ってこそすれ、誰かが傷付くなんて想像をしないまま軽はずみに嘘をつく。隣に佇んでいるライナーくんに目配せをして話を合わせてくれるよう促せば、彼は少し気まずそうに後頭部を掻き混ぜてから頷いてくれた。それに気付かないマルコくんは疑う事なく俺の言葉に微笑んで張り詰めていた緊張を解いてくれたのだけれど、もう一人は冷静に回りを見ていたようであっさりと見抜かれてしまう。
「ッチ……嘘つけよ」
「う、嘘じゃないよ」
「じゃあ隣にいるライナーはなんなんだ」
何の感情も汲み取れない表情を差し向けたジャンくんは裸足をペタペタ鳴らして近付いてくると、ぼくを挑発するように顎を上げてから静かにわらう。それでもなお、感情は完璧に殺されているから、しどろもどろに応答するぼくの頭の中を掘じ繰り返し尽くして、全てを明るみにしようとする実直さのみが浮き彫りになる。
「なにって、そこで会ったから一緒に……」
「アンタの部屋から食堂までの間で俺達が利用してる部屋は風呂場と洗面所と便所だけだ。今の今まで洗面所には俺達が居て、風呂場を利用してるやつも便所を利用してるやつも居なかったぜ。何処でライナーと会うんだよ」
「えっと……」
「答えは簡単。最初からライナーがアンタの部屋に居たんだ。部屋からここまで一緒に来たんだろ。二人がデキてないってんなら朝っぱらからライナーが部屋に行ってすることは一つ。アンタを起こすことだ」
「おい、ジャン」
「マルコは黙ってろ。――……なにか理由があって起こされたのは何と無く分かってるさ。だが俺の面目が潰されたぜ。どうしてくれんだよ。アンタの申し出を無視しときゃあ、俺は自分の責務を果たせたんだ」
「ジャン、流石に失礼だぞ!」
ぐうの音も出ないほど完全に見透かされている。全てをロジカルに紐解いて嘘を見抜かれてしまった。続くジャンくんの言葉で更に自分の失態が露になっていくから、思わず頭を抱える。