第4章 【前】悲鳴嶼&宇随(鬼滅/最強最弱な隊士)
「地味にやっと見付けたぜ、名前」
「ッ!!」
低く唸るような声のする方を慌てて振り返ると、今まで俺が座って茶を啜っていた座布団で天元が胡座をかいていた。内膝に肘を置いて頬杖を着きながら、にっこりと微笑んでいる。
「どう、して……っ」
「竈門にズバリ指摘されてから全集中を切らしてるだろ。その後の呼吸音と心音は俺が良く知る可愛い可愛い末弟のものと一緒だったもんで、恋しくなって逢いに来ちまった」
「……っ」
腹の底が読めない天元が昔から大嫌いだった。里では狼狽を色濃く纏った暗い性格だった癖に、鬼殺隊内で聞き及ぶ性格はまるで正反対。何を考えているのかさっぱり分からない。毒蟲なんざ刺すか齧るかしか能が無いんだから、外界全てを拒絶する様な歪んだ性質に変容していたらまだ納得するってのに。
「さァッ! 派手に再会を喜ぼうじゃねぇかッ!」
「断るッ!」
右腕を揚々と持ち上げて満面の笑みを浮かべた天元が抱擁を求めて『来い』と吠える。直ぐさま拒否をするが、喜色は翳る事無く、寧ろその色味を増していく。何処吹く風で張った声は頑丈な邸をにわかに震撼させた。
「照れんなってッ!」
「照れてねぇわッ!」
前方への警戒を怠らぬままジリジリと後退すると、踵が何かを踏み付けた。一瞥すると竈門の靴先だった。前門の毒蟲・後門の爽やか少年であるなら、間違いなく突破口は後者にある。戸惑いの表情を浮かべて俺達を見比べていた竈門には再び面倒を掛けちまうが、今一時だけ俺を助けてくれ!
「竈門! アイツを抑え付けろ! 俺は逃げるッ!」
「えっ!? 名前さん!?」
「竈門! お前は天元様の味方だと信じてるぜ、名前を今直ぐに取り抑えろ!」
「えっ!? 宇髄さん!?」
言うが早いか身を翻し、過剰反応に余念が無い竈門の脇を通り過ぎて邸の門戸へと駆け出す。天元は忍の時分から里随一の瞬足の持ち主だが、それを言えば俺だって元忍。アイツ程じゃないにしろ、身のこなしには自信が有る。
忍として鍛錬を積んだ時間よりも剣士として研鑽を重ねた時間の方が圧倒的に長いが、骨身に刻んだ技巧、それに絡み付く膨大な業は、決して忘れやしない。だから迷わず『組み合わせ』れば良い。
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