第4章 【前】悲鳴嶼&宇随(鬼滅/最強最弱な隊士)
(噫、畜生)
――元音柱・宇髄天元は俺の血の繋がらない兄貴だ。末弟は修行中に命を落としたものだと思っているから……つうか俺がそう偽装したので、奴は俺が生きて里を抜けた事を知らない。
一族に悟られぬよう、息絶えて川に浮かぶ兄弟の死体を引き揚げると、首、左肩、右肩、胸、腹、腰、脚と、部位ごとに切り離し、巧く組み替えて架空の死体を一体分拵えた。俺も修行中に死んだ様に細工したのだ。
紆余曲折を経て何とか逃げ切ると、潜伏していた漁村で偶然お館様に拾われて今に至る。心機一転、鬼殺隊士として頑張んぞと張り切っていた矢先、何故か天元まで鬼殺隊に入隊してきてしまい、あっという間に柱の座に就いてしまった。
風の噂では、修行中に早世した俺達以外の六人姉弟は『強い子を残す』という親父の狂った方針の元、相手が誰であるのか分からないように覆面を被せられた状態で殺し合いを行ったそうだ。
蠱毒のようなものである。天元はそんな壺の中で、最強の毒蟲として生き残った。正常な判断を下せる人間であれば、毒を振り撒く危険な生物になんざ先ず近付かない。君子危うきに近寄らず、だ。
だから俺は天元と関わらぬよう、存在を知られぬよう最善を尽くしている。彼奴は耳が良かったから、全集中・常中で呼吸の調子や血の巡り方を変え、身体が鳴らす音を丸ごと変えた。
万が一に備え、染め粉で髪色に変化を与えたり、眼球に特殊な薬液を垂らして瞳の色を変えている。鳶型の面頬を常に身に付ける事で印象操作もしていたのだ。
(それがなんだ……、『匂い』だぁ……ッ?)
音の対策は然と練ってあるが匂いの対策なんざ打ってねぇ。しかもさっきは怒りが先行したせいで聞き流したが、竈門は確かに「貴方"が"名前さんか」と言った。話の脈からしても俺と天元に何らかの繋がりがあると断定した上で確認していた気がする。そりゃ、つまり……。つまり……。
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