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日章旗のデューズオフ

第2章 ライナー・ブラウン(進撃/疲れない恋の仕方)



「んうっ」
「……たまらないな」

腹に巻き付く腕――それも、視界を切ったのは兄貴なんて目じゃない太さの腕だ。服の上からでもわかる筋肉の稜線とも言って良いその形状を持つ者は同期の中でも数えるほどしか居ないだろう。内耳まで滑り込んできた声の低さから絞りこめば相手が誰なのか判ってしまう。判ってしまえば現金なもんで体が即座に反応した。あのエグい味が口内にじゅわっと拡がる。俺は恐る恐る身体を起こして振り返った。

「ラ、ライナー……?」
「よう、是正」
「よ、よう」

自然と挨拶をしてくるが、ライナーと俺の顔には大した距離がないため台詞の一音一音、呼吸の阿や吽が逐一くちびるに吹きかかる。もうこれは口付けしてるのとほぼ変わらない。何か名状しがたい浅ましさに突き動かされて、ついゴキュッと喉を鳴らしてしまえば、聞き落とさなかったライナーが腹立たしいくらいハンサムな顔でくつくつと笑う。くそう。
顔が赤くなったりしてないだろうか、頬を手の甲で抑えながら然り気無く顔の角度を変えて逃げを打つと、ライナーの纏う空気が急に鋭くなった。自分から意識を逸らされただけで妬くところはいつだって幼い印象を与える。ハンサムが台無し。

「こっち向け」
「んー……」
「どうした」
「……近い、皆がいるだろ」
「見せ付けてやればいい。変な虫が寄らないようにな」
「蓼食う虫も好き好き」
「なんだって?」
「変な虫なんかこねぇよって言いたかった」
「……その言葉は東洋の言葉だろ。古い言葉だ、よく知ってるな」
「アッカーマンに教えてもらった」
「……俺に黙っていつミカサと話した」
「またそう言う!」

ライナーは聞きたくない話や興味のない話には乗らない性質があった。皆の兄貴を気取っている時は真逆に親切なもんだが、俺と会話をする時には大概がこうだ。しかも直ぐに話の腰を折って嫉妬に走る。相手が同性であれ異性であれライナーには関係ないらしい。専らベルトルトとマルコには厳しくて、俺達が隣立っているだけでも間に巨体を割り込ませてくる。はっきり言ってかなり鬱陶しい。

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