第18章 【拾伍】炭治郎&炎&水(鬼滅/最強最弱な隊士)
「……岩注連、俺にも手伝える事があるだろうか」
「……み、水柱殿。居らしていたんですね」
俺が無用な一言を噛んでしまうと、暖簾に引き留められて不自然な跬歩を繰り返す同僚の様子を一瞥していた水柱殿の眉宇が微かに歪む。杏寿郎さんと比べて控えめな量の食器を重ねた長盆ひとつで来られた彼は、憮然と立ち尽くした。
先達て竈門の接近を許した折に、あれほど己の鈍さを呪ったばかりだというのに。いよいよ堅薪に横臥し苦渋の胆を嘗める厳しさを以て、己の腑抜けた感覚を律せねばなるまい。目前の来訪者に心を奪われていたなどという言辞は、掩耳盗鈴の類。無能の露呈を糊塗する醜態に他ならなかった。
「……水柱殿。ありがとうございます。食器、受け取ります」
「……」
「水柱殿?」
「俺の影は薄くない」
「えっ」
唐突に放たれる浮世離れした言葉へ思わず反問してしまう。どうやら、ご自身の気配の希薄さが此方の不覚を招いたと曲解されたらしい。先程の予祝といい今回といい、この方との対話は雲を掴むようで、互いの視座は氷炭相容れないほどの食い違いを孕むようだ。聲の抑揚が皆無の「俺は嫌われていない」という追撃を受けて、冷や汗が背筋の隆起を辿って往く。
「……失言でした。水柱殿に非は有りません。ましてや影が薄いなどございません。嫌われているとも思いません」
「……」
「でなければ風柱殿辺りが排斥するでしょうし、口もきかず邪険に扱う筈です。それこそ同じ釜の飯を食している時点で嫌われている筈がありません」
「……」
「少なくとも俺は好ましく思います」
「……!」
空回りは否めないが「言動が過ぎず物静かなところは好感が持てる」と此方も負けじと言葉を追い込めば、水柱殿は気魄を唸らせながら天際の瞳をこれでもかと見開いた。
『風、碧落を吹いて浮雲尽きる』という禅語の一説が似合う冴え冴えと澄み渡った青眼は、感に堪えぬ様子のまま俺を射抜く。その至純な眼光に灼かれていると、居心地の悪さ故に相貌を伏せたい衝動に駆られてしまった。
水柱殿が疎外感を抱いたままで任務に支障が出ても困るし、組織の円滑な運用を考慮して上意である柱を立てておく事が道理だろうと思っての斟酌的行為であっただけなのだ。それが何故か奇妙な手応えである。
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