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日章旗のデューズオフ

第18章 【拾伍】炭治郎&炎&水(鬼滅/最強最弱な隊士)



「名前は、人の良い部分を見る。そして惜しげも無く伝えてくれる。我々はその言葉に救われているんだ」
背後から掛かった穏やかな声に振り返る。​何時の間にか暖簾との格闘を終えていた杏寿郎さんが、板台へお盆を据え置くところであった。生ける太陽のような焔色の髪を揺らす背中へ「分不相応だ」と謙遜を差し挟むが、「そんな事はない」と一蹴される。
「上意下達という信条が、君に好意的な言葉を吐かせているとしてもだ。俺も冨岡も、君の言葉に救われる」
「……」
「より善く在ろうと足掻く至誠に、我々は感銘を受ける。そんな君から掛けられる言葉には力がある。名前、胸を張れ」
「……──」
──御山に於ける鬼事形式の柱稽古の時も、修行場で霞柱殿を窘める時も、そして今も。杏寿郎さんは俺を寛大に評価する。比興とは無縁な気質がそうさせるのだろうか。であれば、黒き血肉を捏ねて筋を接ぎ治し、人と異形の境界線を曖昧に跨いだ俺を「人理覆す勿れ」と指弾しそうなものだが。
(……どちらの言葉に力があると思ってるんだ)
杏寿郎さんの紡ぐ言葉が、岩漿の如く纏わり着いて離れない重き業を削ぎ落とし、執拗く燻ぼる胸の蟠りを丁寧に解きほぐしている事を、果たして理解しているのだろうか。妬みにも嫉みにも恐れにも、決して指針を揺らさない──公平且つ客観的な言葉に、人が何れほど救われてしまうのかを。
(……)
衆人環視の中、魂を削り出して全霊を賭せば「不気味な奴だ」と誹謗される恐怖を、俺は知っている。足並みを揃えて陸な活躍を見せなければ「怠けた奴だ」と中傷される恐怖を、俺は知っている。だからこそ響く。その甘さが。
(……杏寿郎さんの目には、人らしく生きる道を諦められずに足掻いてるように見えるのか。俺が)
返答に窮して棘々しい息を嚥下し、自らの下唇を無意識に淡く噛む。微かな痛みが走ると歪な安堵感が胸中を巣食った。対して杏寿郎さんは、部下の軽微な自傷の様子を間近で捉えた途端、慈悲と寛容の笑みを一際深めてから俺の頬に触れた。そして、親指でゆっくりと頤唇溝をなぞり、燃えるような熱の痕跡を残す。
「っ」
「名前。善哉が冷める前に三人で運んでしまおう」



第十五話 終わり
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