第17章 【拾肆】宇髄(鬼滅/最強最弱な隊士)
***
貧血という重篤な生理的極限は、意識の輪郭を執拗に削り落として往く。間断なく繰り返される生欠伸の底で、微睡みが瞼を蕩けさせ、暗転への誘引を加速させていた。
人間的な存立が危うい姿を見兼ねたらしい天元は、鞴に似た不機嫌な低声で「こっちへ来い」と零すと、洗練された動作で俺の肩を搦め取る。拒絶する気力は残されていない。網目の荒い簡易的な鎖帷子の無機質な硬質さを、肌を刺す金属の不快な冷涼さを煩わしく思いつつも、随意を供する他なかった。
(あ……)
何時の間に回収したのか、天元の右掌には尽の呼吸で傷が塞がると同時に肩から排斥された峨嵋刺が握られている。大量の毒素を分解し続けた成れの果ての、粘性を帯びた至極色の血液が、鏃を凝視する蘇芳色の隻眼を嘲弄するかのように、曇天の狭間から降り注ぐ光芒を妖しく反射させる。
「──名前とお前らの模擬試合は此処で打ち切りだ。当初の予定通り 『時透と煉獄』対 『不死川と悲鳴嶼の旦那』でド派手に殺り合え」
次の瞬間、射殺さんばかりの鋭利な眄目をひとつ、正面へ。顳顬を泡立たせ、美麗なかんばせに引き攣れた嗤笑を縫い付けた天元は、深緋の爪紅が際立つ指先を四人へ突き付けた。天蓋で爆ぜ散る花火の様な大音声には、異論を圧殺する絶対的な拒絶と、峻烈な非難が濃縮されている。
無闇に触れば、即座に致命の猛毒を注ぎ込んで返り討ちにしてやる──そんな剥き出しの殺気を帯びた確固たる敵意を露わにする天元の姿など、俺の記憶に存在しない。
派手を標榜として、良くも悪くも目立つ事を何よりも第一に優先する男だが、昔から上意には従順で、反撥はせず、無駄な衝突を避け、飄々と渡り合える賢い奴だった。それに加えて、懐に入れた存在には何処までも甘く、優しさを惜しまない男である。
その処世術と人柄を識っているからこそ、苛烈なまでの変貌に驚愕を禁じ得なかった。況してや其の理由に己が関与しているとなれば、尚更。
→