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日章旗のデューズオフ

第17章 【拾肆】宇髄(鬼滅/最強最弱な隊士)



皮肉な事に『空蝉』と『尽の呼吸』は相克の関係に在る。命の剰余を削って真価を発揮する『空蝉』にとって、その代償を支払うべき肉体という器そのものを縮減させる『尽の呼吸』は、前提条件を根底から食い破る毒に他ならない。
蘇生を繰り返すほどに、俺は『空蝉』を維持するための物理的許容範囲を自ら絞り込み、自身を動かすための最小単位を失っていくのだ。まさしく諸刃の剣と言えるだろう。
当然、尽の呼吸を使う間は他の呼吸が使えないばかりか、戦う事も出来ない。膝を着くなり身を屈めるなりして体軸を低く安定させていなければ、下がった血圧に対応出来ずに貧血で転倒するなど、常に危殆が付き纏う行動的弱点も有る。
この呼吸があるから多少の無茶も無謀も許される、という楽観的な思考回路を抱けないのは、この為だ。だからといって力を出し惜しみ、命脈を断っていては元も子もない訳だけど。
「っは。ド派手だな。猫に九生ありってか」
「……なんで猫?」
「さぁな。おら、立て。何時まで地味に座り込んでんだ」
どちらかといえば音も無く忍び寄って、膝を着く俺の傍らへ立っていた天元の方が余程のこと猫のようだと思う。飼い主ではなく家に従くという性質も、なんとなく。
眼帯の宝石を煌めかせながら屈み込んだ奴は、此方の返事を待たずに前腕同士を逆様に重ねて肘の骨を鷲掴みにして来たかと思うと、己が起立する力を利用して無理やり俺を釣り上げた。相も変わらずの剛腕だ。肩の関節が軋むほどの衝撃と共に、視界が強制的に跳ね上がる。
「痛ぇよ」
「それは身体の回復が間に合ってねぇって意味か」
「違うわ、天元が馬鹿力だって言ってんの」
「真面目な話な、お前のその力、無条件で身体が修復されると思っていいのか」
「……どこで読心術解いてんだよ面倒くせぇ」
「良いから」
「肉を削って移動させてるだけだから、失ったものは失われたままだ。現状、血が足りてねぇ」
「……そうか。分かった」
貧血に蝕まれた視界の端々で、黒い華が不吉に咲いては枯れ往く明滅の中、天元の身体上に散見される星芒の輝きだけが、網膜を刺す確かな光点として律動している。神妙な面持ちで頷いた拍子に銀糸の髪が不意に揺れて、俺の額と頚筋の双方を微かに擽る度に『噫、俺は生きてここに居る』という実感が募った。

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