第17章 【拾肆】宇髄(鬼滅/最強最弱な隊士)
噦りに似た痙攣に合わせて血の波が気管を競り上がり、犬が威嚇した時の様な唸りと共に喀血する。込み上げた嘔気に抗ってしまうと血塊が声門に絡んで喉を閉塞し、呼吸が出来なくなるから遠慮はしない。
「大丈夫か、名前」
天元が落ち着いた声音で訊ねてくる。しかしその隻眼は──咳き込みながら雪を掴んだり、呻きながら身を捩って立位に足掻いたり、はたまた茫然と曇天を仰いだり……岩軀の膚を喰らって吹き飛ばされ、三者三様な様子を見せる風柱殿達を遠巻きに観察し、試合の行く末に判断を下そうと様子を見ていた。
次いで響いた「手を貸すか」という問い掛けには、間髪入れずに短い謝辞を噛んで掌を見せた。房中術の際の蕩けた声よりも一段と潤いの増した甘い声には、焦燥など微塵も含まれていない。俺の事情を察しているのだと悟った。
(────尽の呼吸 壱ノ段)
動脈破裂を起因にして、あと数分もせずに死ぬ俺が、回復の呼吸から独自に編み出した我流の呼吸で『蘇生』すると、天元は分かっている。これに対して漠然と抱いている、常軌を逸した不道理な力への恐怖も葛藤も、読心術で覗き尽くした後なのかもしれない。其れならば一層のこと刮目せよ……だ。これが俺なりの『死なない努力』の集大成なのだから。
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──尽の呼吸。それが俺の呼吸だ。尽くすことから、彼の国の天才軍師が遺した『鞠躬尽瘁 死して後已まん』という故事から、仏の教えに在る『尽十方界』から号を戴く事にしたこの呼吸は、攻撃に一切向かない回復特化の呼吸である。
第一の『束身』では組織を束ねて血管を縛る。欠損した断面や破裂した内臓を、 筋肉の超収縮によって物理的に結束し、循環血液量の減少に対する衝撃を食い止めるのだ。
仕組みとしては、不随意筋である血管平滑筋を自律神経の限界を超えて制御し、断面を結紮した状態にする。これにより出血死を免れるだけでなく、体液の流失を防ぐことで血圧を維持し、脳への酸素供給を死守する。
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