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日章旗のデューズオフ

第17章 【拾肆】宇髄(鬼滅/最強最弱な隊士)



***

──噫、走馬灯をみていたのか。瀕死の危機に直面した際に脳が過去の記憶を強制的に引き摺り出して生存手段を模索する現象を走馬灯と比喩するが、そんな折でも『空蝉』に頼ろうとは、道理に妄執している俺らしいと自嘲する。
「……、……」
混濁する意識の中、脈打つ視界の両端で、膚が裂けて肉が覗いた腕が揺れている。その度に、瑠璃を帯びる濃紅梅色の筋繊維から至極色の血液が溢れ、ビタビタと重い音を立てながら指先を滴り落ちていく。修行場の神聖な土が汚れていくさまを、見るとも無く見ていた。
肩幅に開いた脚が胸元に近い事から、自身が随分と不格好な前傾姿勢で居るらしいと知る。痛みを我慢しつつ身動ぎすれば、辛うじて指に引き掛かっていた分銅鎖が血の海に鏗鏘と堕ちた。然程太くない鎖の鳴き声が物悲しい。
「ッい”……てぇ”ぇ”……ッ」
──三柱の攻撃を避けられないと判断した限り限りの刹那、反復動作を省略した状態で岩軀の膚を繰り出した。八年前と全く同じ状況だ。案の定、肉体が崩壊を始めている。
もっと早くに決断すれば、迷いなど抱かなければ、躊躇わず、急を要さず、般若心経の真言も唱えられた。身体が壊れる事を恐れなければ、死を恐れなければ、離魂一歩手前の無様な姿を晒さずに済んだ。
「ッは……まぁ”でも、待”っで、たら”、死ん”、でたなぁ”……ッ」
あのまま攻撃を受けても深手を負っていただろうけれど。あの時の三人は本気で俺を殺しに来ていた。どれだけ扇動しても躊躇い続けた後輩達と違って、彼らは易々と『一線』を越えて、俺の爪牙を折りに来ていた。
たかが模擬試合で……とは思う勿れ、だ。繰り返す様だが、鍛錬と実戦に差が無ければ無いだけ十全の備えとなり、有事には万全の実力となる。瞬間的だろうが十二鬼月に匹敵する脅威だと認識されたのなら、光栄な事だ。
「ッぐ、ぅ……ッ!」
平手打ちされたような衝撃と眩暈に襲われた次の瞬間、腹部の大動脈が破裂した。致死だ。砕けた肋骨が肺腑の一角と横隔膜を突き破り、周囲の主要な血管を傷付けていたのだ。経験のない腰深部への激痛と、腹部への膨満感が有るとは感じていたが、これだったか。

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