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日章旗のデューズオフ

第1章 ライナー&ジャン(進撃/104期)



ジャンくんがあげてくれたらしい線香はまだまだ長さを保ったまま灰に孤立する。金緋の飾りが豪華な仏壇を仄暗く縁取る小さな明かりは、傍らに佇む彼の顔すらぼんやりと浮かび上がらせた。

「どうして線香を?」
「俺達の世界にも身内を弔う室内用の墓はあるんだ。まあ安全な区域の家にしかないけどな。……これ、そうなんだろ。居候の身だ、挨拶しとかねえと失礼だと思ってよ」

これ借りたぞ、と持ち上げたのはマッチの箱。一度振って中身を主張させたあとに細い指が再びそれを置く。

「……さっきは悪かった」
「え……?」
「突っ掛かっちまっただろ。アンタを困らせたいわけじゃなかったんだ。……俺、思ったこと直ぐ口にしちまう奴でよ。よくマルコにも言われるよ」

仏壇の奥を見詰めるジャンくんは振り返りもせずに謝罪を溢した。場所が場所だけにまるで懺悔だ。ツーブロックの後頭部をうなじから殊更ゆっくり撫で上げて毛の流れに逆らっているのはどういう心理の表れなのかな。次第に乱暴になる片手はふわふわのアッシュブラウンすら掻き乱して。
少し疲れがみえる細い身体は腰に体重を乗せているため僅かに湾曲している。それが一瞬けむりのようにくゆって翻れば、存外困った顔をした彼と目が合った。

「……これからもずかずかモノ言っちまうかもしれねぇ、けど……けどよ」
「……うん」
「嫌わないで、欲しいんだ。今この家を追い出されたところで、また新しい宿を探すっつうのは多分、不可能なんだろ? アンタみたいなお人好しが早々いないことくらい分かってるつもりだからな。正直な話、元の世界っていうのか? あのデカブツだらけの世界に帰りたかねえけどよ。一応、俺にも未練はあるんだ。……だからこの世界から、ちゃんと帰りてえ」

一文字に渡るベルトを引き千切るかのような勢いで胸元を強く掴む手は、甲に青筋を立てながら震えていた。気の強さを証明する立派な眉が八の字に歪む姿は正直、見ていられない。さっきみたいに吼えて貰った方がずっと楽なのに、わざわざ絞り出すように話すなんて。
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