第1章 ライナー&ジャン(進撃/104期)
「……」
「……な、なんか言ってくれよ」
未練とは何か、わざわざ問い質すつもりもないけれど、漠然と、残してきた家族の心配をしているのでは……と思った。ぼくも仏間の暗闇に入ってジャンくんの正面に立つ。さざめく心がどうしてもその嵩を増すから、とうとう彼をきつめに抱き締めてしまった。
家族は抱き合わない。少なくとも我が家では、日本では、あまりされないスキンシップといえる。でもジャンくんは暴れたりしなくて、それどころか背中に腕なんか回されてしまったらぼくも調子に乗る。
「……大丈夫だよ、あれくらいで君を嫌いになったりしない。追い出したりもしないから。だから、そんな顔しないで。ね、ジャンくん」
「……ん」
「ぼくはとろくさいところがあるって昔から言われているくらいだからね、ジャンくんみたいにはっきりと気持ちを伝えて貰った方が助かるよ」
「……そっか」
ぎゅむぎゅむと押し付けられるジャンくんの頬が温かい。またそれが無性に可愛らしかった。実の弟は小さい頃から達観していて頼りになる子だったから、こんなに密着して甘えられるのは初めてで。だからなのだろう、皆を甘やかしたくて仕方なくなるのは。頼られたいというより甘えられたいなんて、少し恥ずかしい願望かもしれないけれど。
顎先を擽る頭髪を指に絡まないように撫でて上げると、ジャンくんはよりいっそう頬擦りを強めたし、ぼくの掌に、もっと撫でろと言わんばかりに頭をぐりぐり押し付けてくる。物凄い甘えようだった。ひたすら可愛い。
「……不安にさせちゃってたね、今朝も、今も。大丈夫だよ、大丈夫……」
「おう」
そのわりに淡白な返事なのがぼくの心をむずむずさせるってことを、まるで彼は分かりきっているみたいだ。
もう少しだけこのまま……と欲を出して頭頂部にこてりとこめかみを預け、一度だけ溜め息をついた。
終わり