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日章旗のデューズオフ

第1章 ライナー&ジャン(進撃/104期)



つまりそういうことなんだ、皆はぼくの顔色を常に窺っていたんだ。怖くて不安で堪らなくて。ついにそれも限界で、その汚れ役とも言うべき口火を切る係をミカサちゃんが担ってしまった……それだけだったんだ。
ミカサちゃんの方を向くと、彼女は今までで一番幼い表情をしていた。すっきりとした目鼻立ちがとろんとほどけているから年相応に見える。何よりも眉間に居座っていた縦皺がきれいさっぱり無くなっていたので、どうやら納得のいく答えを得られたようだった。ぼくはベルトルトくんにぎゅーぎゅー抱き潰されながらミカサちゃんに話を振る。

「ミカサちゃん、好物はなに?」
「えっ……好物、ですか」
「そう。すきな食べ物はあるかな」
「え、えっと」
「ミカサは芋が好きなんだよな」
「エレン……私は一度も芋だと言ったことはない」
「だって食ってただろ、毎日」
「それは……それしか食事に出されてなかったから。私の好物は別にある」
「聞いて良い?」
「……りんご、です」
「一応確認するけど、りんごってあの赤色とか青色の、甘酸っぱい果物で良いのかな」
「はい」

今日の夕飯に出せればと思って振ったつもりがデザートだった。りんごくらいなら大学の帰りに買って帰ろう。この人数を賄う量ともなればかなりの数を買うことになるけど、そこまで高いものでもないし、皆の笑顔が見られるなら苦でもない。

「今日の夕ご飯の後のデザートにしようね」
「でざーと」

ああ……しまった。"芋"や"林檎"などは通じるのに、外来語や英語の一部は通じないことを忘れていた。名前から発想してみてもよっぽど彼等の方が瀟洒にそれらを話しそうなのに、ぼくより高度な日本語を使う時もあった。この矛盾にいつになったら慣れるのだろう……。悲しいことに現役の大学生とはいえ咄嗟に翻訳して伝えるのは至難の技だった。方言しかり。

「あっ、えっと、おやつ……違うかな、口直し……何て言うんだろ」
「ふふ…」
「!」

その時、ミカサちゃんが初めて笑った。くすくすと小気味良い呼気の流れがその場で弾ける。これにはエレンくんも目を剥いて驚いていた。美人な子の笑顔は思い描いていたものよりよっぽど可憐で惹き付けられるといって良い。細められた眦は作り笑いでないことを証明している。
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