第1章 ライナー&ジャン(進撃/104期)
「ベルトルトくん」
「……ずるい、ですよ」
「ん?」
「今の言い方は確かに、僕らをこの家に置く理由に相応しいです。でも『大人だから助けた』なんて言葉使われたら、だったら僕のこの気持ちはどう処理したらいいんだって、話だ……っ」
「んっと……」
「だから、あの、是正さん自身は、正義感や善意とか抜きにして、僕達をどうしたいのかなって、思うんです。僕達は煩わしいですか? 邪魔ですか?」
それとも……と尻すぼみになる言葉は、形の綺麗な唇に柔らかく咀嚼されて消えていく。高い所から顔を覗き込んで問い掛けている立場なのに心許なく感じるのは顔色の悪さからか。件の唇も真っ青だった。
「落ち着いて。不安にならなくて大丈夫だよ」
「……っ」
なるべく優しく囁きながら硬く凝り固まった頬を二回ノックしてあげると、丸い睫毛の縁取りが更に丸くなった。それを笑顔で迎えるというのもどうかと思うものの、気を少しでも緩めてくれれば、ぼくも楽だ。
「邪魔なんて思わない」
「……ほ、ほんとう、ですか?」
「うん。言ったよね、可愛いんだ、皆が。容姿の話じゃないよ、愛しいってことを言いたくて。最初こそ正義感だったしぼくのエゴに過ぎなかったけど、皆がぼくのご飯を美味しそうに食べてくれたり感謝してくれたり、そういうのが積み重なって……こう可愛いなぁって。一気に家族が増えた感じがして凄く楽しかったんだ」
あえて口にしない心情というものもあるけど彼等に気持ちを隠していても得はないのだろう。今まで不安そうに見ていた皆がぼくの台詞を訊いた瞬間に緊張の石積を崩した。あるものはお茶に溜め息を溶かしながら啜ったり、あるものはテーブルに突っ伏して貧乏揺すり。椅子の背凭れに全力を預けて天井を仰ぐ子もいる。どれも床しいとは云えない行動だけど、それだけ皆はぼくに遠慮していたのかなと思うと、良い兆候に思えた。良い子にしてないと見捨てられる――そんな風に思われていた可能性も捨てきれないからだ。
もしそうだとしたら、毎朝ぼくを交代で起こすという一種のおつとめも、それを偶然にもこなせなかったジャンくんの「点数稼ぎ」にも合点がいく。