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日章旗のデューズオフ

第1章 ライナー&ジャン(進撃/104期)




ダイニングテーブルの中央が興奮に沸いている横で緊張を隠せないミカサちゃんがぼくの視線を奪うように身動きする。紅いマフラーを巻き直して姿勢を正して。でもまたあの薄暗い表情だ。どうにも彼女はクールな構えを崩さない。まだぼくを信用できなくて警戒している事を隠さない――もって清々しい姿と云える。きっと彼女が一番現実を直視しているから慎重で冷静で、不安なのだろう。ならぼくも真摯に対応するのが礼儀だ。大きく深呼吸をする。

「……是正さん」
「うん。脱線しちゃったね、ごめんね」
「……」
「……少なくとも自分の事を大人だと思えている成人は、目の前で傷付いている子達を無条件で保護しなければならないって思うものなんだ」
「……」
「最初はぼくも皆を手当てして一晩家に置くだけで事足りると思ってた。朝には警察に届けて親御さんに引き取ってもらえばいいと考えていたし」
「……」
「でも君達が異世界から弾き出された存在だと知った時にそうはいかなくなった」
「……どうして、ですか。見なかった事にして……一晩泊めた恩をきせ、口外しないよう努めた後に、外に放り出す事も出来た」
「それをしなかった理由は言わなくても分かって貰えてるんじゃないかな」
「……」
「君達の命がかかっている事だ、無責任な行動は取りたくなかった。保護したからにはきっちり親元まで、今回は元の世界というべきかな……そこへ帰すまで君達の面倒を見たかった。お金を取る気なんか更々ないよ、見返りも要らない。ただ君達が此処にいる間だけは笑っていてほしい。笑って楽しんでほしいんだ」

だからぼくが君達を守るよ、そう付け加えて笑ってみせると突然真横から衝撃が加わる。肩口に回された一人分の腕は見なくても誰の物か分かった。ひねりがないけれど席順で。
熟したオリーブ色の頭が首筋にぐりぐりと押し付けられているから何かを訴えているのは分かった。でも肝心の声にはなっていない。ただ甘えられるのも愛しいけど、筋肉しか身に付けていないぼくに抱き付いて居心地悪くないのかな。驚く皆を一瞥しながらぼくの左手はふんわりとした真っ黒な絹糸を掻き乱した。
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