• テキストサイズ

日章旗のデューズオフ

第11章 【捌】悲鳴嶼&宇髄(鬼滅/最強最弱な隊士)



「は、はなせッ……!」
「……名前、俺の方こそ茶化しちまって悪かった。照れくさくてよ。昔みたいに愛しさ先走って猫可愛がりするってのが果たして許されるものなのか判断に迷った挙句、間違えたらしい。やり直して良いか?」
「……」
「あの里で俺を慕ってくれていたお前の存在は何を差し置いても手放し難かった。お前と話す俺は『ただの宇髄天元』でいられた。その喜びに満ちてるうちは、何につけても嫌ってほど甘やかしてやりてぇ」
腰が抜けそうなほど濡れた低い声を出している。そこから紡がれる台詞を額に受けて恐る恐る美丈夫の面を仰ぎ見ると、次の瞬間、奴から尋常じゃなく濃いとろみを帯びた気魄が溢れ出した。
天元から気魄だなんて初めての事で露骨に狼狽えてしまう。派手だ派手だと騒ぎつつも気配を絶って世と溶け込もうとする奴から、人間たらしめる確固たる存在感が発せられるなんて。
もしかしたら俺以外には散々放っていたものかもしれない。いざそれを全身に浴びる事に成ると、窒息してしまいそうなくらい息苦しくて、無意識に頚を掌で覆う。下手を打てば全集中の常中が乱されそうだ。
「天、元……」
「お前が訓練中に死んだと親父に聞かされた時にゃあ血の気が引いた。今となってはマジで鵜呑みにしなくて良かったわ。血眼になって探し回った甲斐あって、こうして五体満足なお前が腕の中に居る」
「……」
「離れていた分を今からでも埋めていきてぇ。また俺を『ただの宇髄天元』にしてくれ。元忍でも元柱でもない、名前を愛でるだけで気を緩ませる、ただの男にな」
「……、……お兄様って、呼んだ方が、嬉しいか?」
「言ったろ、無理強いはもう止める。嫌なら呼ばなくていい」
「……ん」
歪な前腕が火照った頬を撫でゆくだけで、こくりと素直に頷ける自分を嘲笑するところだった。これこそが去る日に恐れていた毒蟲の毒牙なのだろうと詭弁を弄するのは簡単だが、間違いなく、元の鞘に収まって嬉しいだけだ。
――勝手に天元への理解を閉ざして勝手に距離を取った自分が悪い。都合良く昔の間柄に戻れるとは思わない。臍曲がりの俺では今の天元を支える立場に相応しくない――そうくさくさしていた所だったわけだから、乾いた大地のような心身に、天元の無償の愛は良く染みた。

/ 190ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp