第11章 【捌】悲鳴嶼&宇髄(鬼滅/最強最弱な隊士)
「ッふは!」
「!?」
その心地のまま自らの唇を舐めた次の瞬間、天元が我慢ならないといった風に吹き出した。その弾みで俺から手を放し、天井を仰ぐように畳へ倒れ込む。暫く腹と目元を手首で抑えて哄笑を続けるものだから、段々と恥をかかされているような気分に成ってきた。
「はー……ッ!」
「……~~~ッ」
一頻り憂き身を窶すと気が済んだのか、今度は横臥の体勢で肘枕を着くと、眦の涙を小指で拭いながら、艶やかな微笑みを浮かべて俺を見据えた。四方を囲う蝋燭の朧気な光が、無意味に整った相貌に余計な憂いを持たせ、色を含ませているようだった。
「あー……わらった。お前さ、ほんッと可愛いのな。昔と変わらず俺の事がド派手に大好きじゃねぇか」
「……お前なんて、大嫌いなんだよ……おら、痛みが引いたんなら早く起き――」
「そうかそうか、何よりも誰よりも大好きか。俺も同じ気持ちだからな、安心しとけ」
「――……俺、いま大嫌いっつったんだけど」
「大嫌いは大好きの裏返しなんだろ、お前の場合は。悪辣な発言に苛付いた瞬間も正直あったが、本心が表に出ないだけだと分かっちまえば、気紛れなところも可愛くて仕方ねぇ」
「あ……?」
「それを思えば里に居た頃、急に避けられ始めた理由に検討が付いてなかったが……成程な、察した。愛しいお兄様が傷付かない為に距離を置くなんざ健気なもんだ」
「……気紛れな義弟で悪かったな」
「違う違ーう。お前がそうであろうと問題ねぇって話をしてるんだわ。出来ることなら昔の可愛い素直な態度でいてくれた方が色々捗るってもんだが、その辺の無理強いはもう止める心算だ。一先ず清濁併せ呑むように受け入れた方が手っ取り早いと分かってきたからな」
「ッ!」
軽佻を慎めと諌めたくなるほど雲行きが怪しい発言をした直後である。手首の有無関係なしに腕が長くて膂力も有った奴だからなのか、器用に角帯へ左腕を引っ掛けてきたかと思うと、意図も容易く手繰り寄せ、重心を崩して畳へ倒れ込んだ俺を腕の中へ閉じ込めた。
柱合会議に参加する為に香でも炊いてきたのだろうか、埋まる鼻先が捉える匂いに目眩がしそうだった。官能的な白檀の奥底で眠る、かろやかな苦味と蕩けるような甘味。同じ香でも悲鳴嶼が纏うさっぱりとした厳かなそれとは一線を画す、刺激の強い匂いだ。
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