第11章 【捌】悲鳴嶼&宇髄(鬼滅/最強最弱な隊士)
(……――)
――今ならば分かる。何も難しい事では無い。此奴は自分の命よりも他人の命を優先する性質を備えていた。明確な身分階層に縛られず、主従以外の関係性を有する相手に対しても理ではなく義で動ける……そういう男だったのだ。
高尚且つ難儀な性分を持つのならば、余程の無体だって承知している筈で、きっと骨が折れようが肉が削げようが臓腑が千切れようが、それこそ顔が腫れようがどうなろうが、己が破滅するまで手を差し出さずにはいられないに違いない。
柱に昇進した後は尚更に守るものが増えていったと思うが、腕と眼を失うに至った理由は昔から変わらないという事だ。同行していた竈門ら後輩を守る為、堅気の人間を守る為、必要と判断した犠牲だったのだろう。
(つらい思いをするのはいつも天元ばかりじゃねぇか。それなら……お前のことは誰が助ける……? お前の為に身を削ってくれる奴は居なかったのかよ……?)
俺が眼となり腕となれば良いと考えなかった訳では無いが、見通しが甘いままでは必ず蹉跌をきたす。技術的には可能であっても、気遣い気遣われるといった当然の意思疎通も難しいほど仲が拗れている俺では衝突が避けられないし、そもそも受け入れられるか分からない。だから誰かに託すしかない。自己犠牲精神が行き過ぎる、この優しい男を支えてやる人間が現れるのを待つしかなかったのだ。
「お前が謝るなんざ、槍でも降るんじゃねぇか?」
「……」
「おい。聞いてんのか、名前」
「……うるせぇ」
「うるせぇって事ぁ無ぇだろ」
「……俺は真面目に心配してんのに、ふざけんなよ」
危惧した傍から売り言葉に買い言葉、憎まれ口ばかり叩く自分に嫌気が差す。後藤相手とまではいかなくて良いから、せめて杏寿郎さんや姐さんを相手にする時みたいに会話が出来ないのか、と自戒する。
眉宇を顰めながら瞬きひとつ。己を責めている間にも、星芒の如き銀糸を掻い潜って見詰め返してくる瞳に、厭わしさが募ってきた。神経質に振れる視線を天元の腹辺りまで落とすと、存在感が有り余る風体も目端に追いやられて翳るから、まるで陽の光を避けて日陰に逃げ込んだ時のような安堵感を得る。
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