
第11章 【捌】悲鳴嶼&宇髄(鬼滅/最強最弱な隊士)

挑発的な台詞から適切な意図を汲み取った竈門は、反論もせず素直に頷き、伊之助と女隊士を連れて廊下に出ていく。個性が際立つ三人分の跫音が遠退くまで大人しく様子を伺っていた天元だったが、やがて完全に気配が消えた瞬間、急に撓垂れ掛かってきた。
「ッ、おい」
「……悪い。少しで良い。このままで頼む」
一切の予備動作なしに密着されれば誰だって喫驚して身じろぐだろうに、雪解け水のような銀糸を揺らしながら体幹を崩す男は、それすら許さないとばかりに全体重を預けてくる。どさくさに紛れて腰まで抱かれてしまえば、戸惑いも一入だ。
熱く脈打つ立派な血管をいくつも浮かび上がらせた豊満な筋肉は見掛け倒しなのかと内心で毒吐くけれど、しかして弱々しく掠れた声で柄じゃない謝罪まで口にされては、流石に突き飛ばすのを躊躇った。
「……なんなんだ」
「まぁ、そう急くなって。直ぐに立てねぇのはマジだ」
「……」
「どうしてもな、無いはずのもんが疼いて仕方ねぇ刻があんだよ。そのせいで動きが緩慢になりやがる」
「…………今もか」
「ああ、今もだ。難儀だよな。昼間は気が紛れてんのか知らねぇが、些とも痛かねぇってのによ」
うらぶれた発言に目を眇めて一瞥する。紅桔梗色の袖から振り抜いた左手首を煩わしそうに睨め付ける蘇芳の瞳には、本心から滲む苛立ちが反映されていた。確かに、存在するものは排除のしようも有るが、既に失われたものとなれば如何ともし難いだろう。
(……江戸時代後期の頃には外国で見られた症状だったか)
包帯で隠れた断面にそっと触れると、硬く歪な肉の隆起が分かった。皮膚を寄せ集めて縫合したであろう中心部分を興味本位でつんつんと突けば、腰に回る腕の抱き寄せる力が並々ならぬ加減で強まり、「悪戯すんじゃねぇ」と吐息たっぷりの低いお叱りを耳に直接流し込まれる。
「……これ、病葉の法?」
「どうだかな」
「最期の賭けに出る程、上弦は強かったのか」
「まさか。楽勝も楽勝だったわ」
「それが本当なら、こんな大怪我してねぇ筈だけど」
「喧しい。相ッ変わらず言葉の隙を逃さねぇ奴だな」
「……悪ぃ、揚げ足取る気は無かった」
「……」
隻眼をこれでもかと見開いて舌を結ぶ天元と罰悪く視線を合わせた時、暁降の空を映した眼帯の宝石が綺羅と光る。額当てに嵌る石と同じ意匠のそれは、天元の言葉を拝借するならば、酷くド派手だ。
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